パソコンが壊れた!

パソコンが変だ。ピーピー音がして止まってしまう。近くのタカダ電機で新しいパソコンを注文した。ついでに初期設定とデータの移動もお願いした。最低限今まで書いたエッセイと、筆王の住所録、メールのアドレスは移して欲しい。費用はパソコン代プラス二万五千円である。

十日後、タカダ電機の高田さんが新しいパソコンを抱えてやってきた。四十歳ぐらいの男性である。

「いったいなんだって、もっと早くパソコンを買わないんですか?こんなになってからでは、移すのが容易じゃないんですよ」

「だって動いていれば、壊れたなんて思わないもの」

「動きが遅いとか何かあったでしょうに」

「うん、それはあったけど、データが多くなっているかなって思って。だからさあ、写真は大方こっちに移したのよ。苦労したんだけど。万一に備えてエッセイのファイルと筆王の住所もこれに保存したから」

私は自信がないままに、一応は保存したつもりのUSBメモリーを出した。

「お客さんの言う保存なんてあてにならないんです。できていないことが多いですからね」

USBには見向きもせず、文句を言いながら他のソフトも移して、以前とほぼ同じ状態にしてくれた。最後に壁紙にしている娘の写真を移してもらえないかと頼んでみた。

「初めに言って下さいよ。写真は移さなくてもいいと言ったじゃないですか」

「うん、そうだけど、この画面だけ」

「どこにあるんです、この写真は」

「わかんないんだけど」

ぶつぶつ言いながらも、探して移してくれた。全部で、二時間ほどで終了。

「ありがとう。お世話様でした。パソコンがわかる人はいいわね」

「いや、趣味でやるのはいいけれど、仕事としてはやりたくないですよ。大変なことばかりやらされますからね」

本音の愚痴だろう。私も彼に苦労をさせた一人である。思わず「えへへっ」と言葉にならないごまかし笑いが出た。私の脳はパソコン向きではないので、えへへとしか対処できない。おばさんの客にはもっと優しくしてよ、とも思う。パソコンのできる人は、なんか権力を握っているような気さえしてくる。

彼が帰ってから、さっそく新しいパソコンを開いた。えっ、何、これ? ウィンドウズ10は、今までのウィンドウズビスタの画面とまるで違う。助けて、高田さーん!