夢解き

私とニホの通っている大学は、十年ほど前まで女子大であったため、今でも学生の七割が女性である。そのせいか、少しでも感じの良い男性はとてもモテた。

そんな中、「けばい」「いっつも男を引き連れてるよね」と、以前は私の陰口を叩いていたグループが、いつしかニホをターゲットにするようになった。

「あの顔で?」「お情けで付き合ってもらってるんだろ」「服もさあ……同じようなのばっか」「身の程を弁えろっつうの」と容赦がない。私はニホのことを、嫉妬とは無縁だと思っていたが、それは、所詮、ニホは自分達の敵にはならないと思われていたからのようだ。私はなるほどなあ、と一つの真理を見た気がして感心していたが、もう一つ感心したことがある。

当事者であるニホが、陰口に全く気がついていない。(それとも気づかないふりをしているのだろうか……?)件のコンパの時も、散々揶揄されていることに対して、聞こえないふりをしていた。或る意味、強いと思う。

「羨ましい子ねえ……」

私はつい本人の前で呟いてしまった。

「え、何が?」

ニホはパフェを大口開けて頬張っている。神﨑と付き合い始めてから、ニホは少し感じが変わった。穏やかで、腰が低いのは相変わらずだが、心なしか以前より堂々としている。

「その何でも美味しそうに食べるところよ」

私は適当に答えた。

「だって美味しいじゃない、ここのパフェ。それに、素敵な雰囲気のお店でしょ? 静真さんに教えてもらったの。ところでなほ子ちゃん、卒業したら結婚するって本当? 静真さんから聞いたよ」

「あ、まあ、まだちゃんと決まったわけじゃないんだけど。そっちはどう? 静真さんは就職決まったの?」

ニホを見ていると、就職活動をしている様子がない。卒業したらすぐ結婚するつもりではないのだろうか。

「静真さん? 大学院に行くんですって」

「大学院?」

「うん。臨床心理士の資格を取りたいんですって」

「あっそう。ニホちゃんはどうするの?」

「静真さんは大学院を卒業したら鹿児島に帰って心理カウンセラーの仕事をしたいと言ってるの。私もついていって手伝いたいと思ってる」

「え! ついていく? 鹿児島に?」

思いがけない答えが返ってきて、私はつい、声が大きくなった。

「そう」

ニホはにっこりと笑って答えた。

「そんな言葉も通じないところに、あんな得体の知れない男のために行かなくても」

「やあだそんなこと言って。私、心理学興味あるから結構楽しみなのよ」

ニホは笑いながら言った。