Ⅱサン・ジェルマン・デ・プレ秋灯

手頃な席を見つけて落ち着くと、私は早速スマホを開いて、彩子に連絡をとった。無事に着いたこと、ホテルもチェックインして、今は東駅のスタバにいることを送信する。ここのドーナツはふわふわで、もちっとしながらも小麦の匂い。シュガーの甘さと小麦の香ばしさがブレンドしてたまらなくいい香り。画像も送ると、間もなく返信が来て国際ライン通信ができた。

さて、ほぼノーメイクでやって来た私は、ここでお化粧をしないと彼に会うまでそのタイミングがない。なぜなら私はパレ・ガルニエ界隈で買い物をして、そのまま彼の店に向かうのだから。

パリのオペラ座をフランス語ではパレ・ガルニエと称する。パレ・ガルニエは広いから、その後ろに立ち並ぶ高級デパートまで地下鉄で一駅くらいの感覚。移動は徒歩でも十分可能で、パリのお洒落がぎゅっと詰まった一角だ。そこでお土産などを調達してから私は旅の本題に入る予定なのだ。コンタクトレンズを入れて、さっと肌を整える。それから待つこと六十分、ようやく雑貨店が開いたのは午前九時半だった。

前回と同じグラスはすでになく、さらに絵の込んだ冬に似合う柄へと変わっていた。たった一か月で品も変わるのか。もう夏のグラスは使わないのか売らないのか、仕方がないので冬用に二個買ってそれでよしとする。日本から返信してきた彩子も、「きっと可愛いと思うから、それでいいよ」と理解を示してくれた。

さあ、午前十時だ。メトロへ乗ってデパートへ行こう。日本だと多くのデパートは午前十時開店だけれど、何時に開くのかな。メトロを乗り継ぎデパートの最寄り駅で降りると、お城のようなプランタン・オスマン本店がそびえ立っていて思わずカメラに収める。もちろんふんわりとした秋の雲もちゃんと写した。パリの空は明るく軽やかに私を迎えてくれた。何かいい予感がする。

私はヨーロッパ最大の売り場面積と言われるギャラリー・ラファイエット百貨店の食料品専門フロア「ラファイエット・グルメ」に迷わず入る。前回のパリ旅行で訪れてたちまち魅了された場所。生鮮食品やお惣菜、スイーツはもちろんのこと、調味料一つにしても目を奪われてしまうお洒落な塩・胡椒が並ぶスパイス専門店まで、ありとあらゆる食文化が揃っている。

私はすぐにエスカレーターで地下一階に行き、大好きなマドレーヌやアンジェリーナのチョコレート菓子、リシャールのコーヒー豆などあれこれを買い込み、地上へ出てメトロへと向かった。ここからは、次の駅のオペラ駅で乗り換えてポンヌフ駅まで四駅。私はメトロに入るまでの大通りで、落ち葉が似合う赤い屋根の小さな売店で絵葉書と切手も買う。

日本まで?(ジャポン?)

そうよ(ウィ)

店の主人はすぐに日本人だとわかってくれて、値段を教えてくれた。そうか、行き先によって値段が違うものね。手渡されたのは薄緑色のマリアンヌ切手だった。フランスの自由を象徴する女性マリアンヌの絵柄。やはり切手はこれでなくちゃ。

峰雲や受け取るフランスの自由