少女と議論と西の魔女 1

「ふうん……それできみは、美咲ノ杜を受験した、ってわけなのか」

「もちろん、理由はそれだけじゃないよ。美咲杜は、生徒の自主性を重んじるいい学校だって聞いてたし。わたし、私立は受ける気なかったから目標はずっと美咲杜だったの」

けれど、先輩の言葉で、この学校が、ただの目標から”行きたい学校”に変わったことはまちがいない。ただし、レベル的には安全圏のひとつ上にある学校だったから、この一年間、優等生磨きと勉強に関しては「もはや悔いなし」といえるくらい、わたしなりの努力をした。

「ねえ、ミュウが、この学校を選んだ理由はなんだったの?」

「家から一番近かったから」

やっぱり……たぶん、そんなところだろうとは思った。

ちなみに、マオが美咲杜に決めた最大の理由は「セーラー服だったから」だそうだ。

「この県じゃ、公立のセーラーは今や完全に絶滅危惧種でしょ? 特にこの学校のセーラーは、学生自治運動と制服自由化の波も、かわいい制服ブームの時代も、生徒どうしの自主的な話しあいで乗り越えてきた、歴史的文化遺産といってもいい制服なのだよね。そういう制服を着てるってだけで、なんだか背筋がさ、ぴーん、と伸びてこない?」

セーラー服ってどう手入れするのかな、なんて現実的なことばかり考えていたわたしは、マオがこの学校の制服について熱っぽく語りだしたとき、ちょっとだけびっくりした。

「中学のときの、紺ブレ&ジャンスカもきらいじゃなかったけどさ。乙女としては、どうしても一度、セーラー服を着てみたかったのよね。好きな制服を堂々と着られるのはこの時期だけだもん。二度とない青春の特権だよ。制服の輝きは、青春の輝きなのさ!」

マオは、「なあんてね」と舌を出して笑ったけれど、心の中にはやっぱり、先輩のあの言葉に応えたい、という思いがずっとあったはず。

「とりあえず、きみがその先輩を慕ってるってことはわかったよ」

ミュウが、揚げせんべいを袋の中で細かく割りながら(最近、ミュウが気に入っている食べかただ)、わたしを見て言った。

「先走りしすぎてもいけないから、事件そのものを、もう少し整理しておこうか」

「うん」

「机の中に血まみれの死神―見えすいたこけおどしだけど、ただの悪ふざけにしてはずいぶんえげつないというか、少々やりすぎの感がなくもない。プールの水を真っ赤にするほうが、まだかわいげがあるね」

「プールはよくわかんないけど……でもこれ、悪ふざけとかそういうレベルじゃないでしょ?」

「ぼくに文句を言わないでほしいな。で、その血ってのは、結局なんだったんだい」

「水で溶いた絵の具とケチャップを混ぜたものだったみたい」

「ふうん……殺した豚の血を使うとか、そこまでやったら大したものだったのに。狂気じみたサイコ・ホラー成分が、ちょっと足りないなあ」

「な、なんてこと言うのよ、ミュウ!」