「いや! 虚無なる死への供物(くもつ)とするなら、せめてそのくらいの徹底はすべきだ。それこそ、悪魔つくって魂入れず、九仞(きゅうじん)の功を一簣(いっき)()くようなものじゃないか。悪魔は細部に宿る、って言葉をこの犯人に教えてやりたいね」

求人の項を一気に書く? ていうか、なんでそんなに力説モードになってるの?

それよりも、わたし的には、死への供物がどうとかいう薄気味の悪い言葉と、おせんべいをぱくつくミュウの幸せそうな顔のギャップについていけてないんだけど……。

「ミュウがこの事件の犯人じゃないことだけは、はっきりとわかったわ……」

「あたりまえさ。鬱屈にまみれた負の感情くらい、愚かで卑小で非生産的なものはない。そんなものにかかずらって無駄にするほどの暇を、ぼくはもちあわせていないよ」

よくわからないけど、よくわかりました……。

「子どもででもなければ、だれが絵に描いた悪魔を怖がるものですか―シェイクスピア―マクベス夫人のセリフだよ。要は、子どもだましってことさ」

「ミュウから見れば、そうかもしれないけど……」

だからって、ゆるされる行為であるはずはない。

「ま、ケチャップだけじゃ本物の血らしくないし、絵の具だけだと時間の経過で乾いて、カードごと机にべったり貼りついてしまう。一応、工夫をしてる点は買ってもいい」

「けなしたり感心したり、忙しいね」

「多面的で公正な評価と言ってほしいね。ぼくは、あらゆるものに対して常にニュートラルでフラットなんだよ。だからこそ、いろんなことが見えてくる」

「じゃあ、もうなにかわかったの?」

「まあね」と、当然のようにうなずくミュウ。

「細部に妙に凝りすぎという点からいってもこの案件は、きみの言うとおり、悪ふざけのレベルを超えてる。それと、その細工をしたのが当日の朝だとしたら、血のりが固まらないよう絵の具とケチャップを混ぜる手間なんて、べつにかける必要はなかったと思わないかい?」

「ああ、うん、そうかも」

「それに、早朝にこれだけのことをするのは、相当にリスキーだよ。朝の学校は、意外とあちこちに人の目があるものさ。時間も絞られやすい。あえてそこまでのリスクを好むほど大胆な犯人像は、この事件から浮かんでこない。犯行は、前の日、つまり木曜の放課後に行われたと考えるのが妥当だろうね」