「どうした、ヨーイチ」

佑子と入れかわるように、足立くんがその傍に寄って行った。

「お前、泣いてんの?」

足立くんの問いかけに、西崎くんは肩を震わせ、小さな声でつぶやいた。何度も、何度も、「ついて、いけない」と。

一年生の全員が、スポーツに取り組んだ経験はないと言っていた。そして西崎くんは、走ることに自信がないのだと。悲しいくらいに足が遅いのだと。十回にも満たない回数の練習で、もうあきらめちゃうんだろうか、と佑子の胸に不安が兆す。

夕陽が波にきらめく中で、佑子も含めた六人は立ちすくんでただ彼を見つめることしかできない。挫折してしまうかもしれない、そんな仲間に、かける言葉が見つからないのだ。

ノロノロとした仕草で、西崎くんはやがて顔を上げた。誰とも目を合わせることなく、ようやく涙が乾いた瞳は、真っ直ぐに水平線に向いている。

「くやしい、から。ぼく、くやしいから。生まれて初めて、本気でくやしいって」

そこまで切れ切れに言って、不意に波打ち際に向かって走り出した。ぎこちないその走り方に似合わない大声を上げながら。つま先下がりになる砂の丘に足を取られ、もんどりうって転びながら、それでも立ち上がって、そのまま海に飛び込んだ。腰の深さまで波に埋もれながら、西崎くんは何度も海面を両手で叩き、大声で叫んだ。

恐れにも似た思いで駆け寄ろうとした佑子に、足立くんは小さな声で言う。

「先生、あいつは大丈夫だよ」

その声は、ひどく大人びて聞こえた。