武史はインターンの仕事の帰り道で、大型バイクの運転を誤り深夜の道路を横断する男性をはねてしまった。横断歩道のない道を飛び出したのはその男性だった。アッと思い、ハンドルを切りブレーキを握ったが間に合わなかった。「しまった!」

武史は転倒した拍子に脚をやったようだった。だが、医師として必要な両手は幸い動いた。

道路に転がる事故の被害者の男性。武史は痛む足を引きずり男性に近寄った。その面立ちは何となく自分に似ていた。出血が頭部からあり、顔の側面を覆っていた。

武史は事故を起こしたことに動揺しながら、救急車を呼ぼうとしていた。そう、今はそんなこと思っている場合じゃない。この人を助けなければ。

「大丈夫ですか?」

と痛む足を押さえて相手の顔を見た時の驚きといったらなかった。心臓が口から飛び出すほどの衝撃で武史は自分が倒れそうになった。暗闇に通行する車のヘッドライトに浮かび上がるその顔は自分と瓜二つだ。

「おい、なんでこんなにそっくりな顔をしている!」

その男性は頭部からの出血が止まらず、まったく動く気配もなかった。

周りで見ていた人が通報してくれたようで、救急車と警察がすぐにやってきた。武史は迷わず父親が病院長である病院へ行くように救急搬送を指示した。自分も同じ救急車に乗り込んだ。脳外科では抜きんでていたからだ。

この先、この男性と自分の人生がどう交差していくのか知るはずもなかった。

救急車の中で自分の脚も応急処置をしてもらうと、武史は痛みもさながら、被害男性の救命処置を懸命に行った。隊員には自分がインターン勤務をする放射線科の医師だと告げた。どうか助かってくれ、お願いだ。武史は心で叫びながら処置を施していた。

武史の父の病院は私立病院ながら、大きさも規模も群を抜いていると隊員も分かっていた。医療法人としては五つある系列の中で脳外科がある所へ行ってくれと武史は叫んだ。

病院前に到着すると医師たちが待ちかまえていた。ストレッチャーが二台用意されると武史もその一台に乗った。あとはベテランの医師たちが助けてくれるだろう。武史は緊張の糸が切れて気を失った。

遠くで誰かが自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。脚がやたら痛い。自分に似たこの男性が死んでしまったら、もう医師としてやっていけないのではないか。そんなことを思っていた。この後、明確な殺意が芽生え暴走を止めることが出来なくなるきっかけを作った事故の夜は更けた。確実にまた太陽が昇り翌日が来るだろう。悲しいことにこの二人の運命は大きく狂い始める。