双頭の鷲は啼いたか

体が痙攣して悪い夢にタケルは飛び起きた。まただ。タケルはずり落ちた布団をかぶりなおした。びくっとしたのはこの殺伐とした夢のせいか、それとも恐怖、それとも室内が冷え切っていたからなのだろうか。

タケルは布団の上に座り膝を抱えて途方にくれていた。また深夜三時過ぎ、いやもう四時になろうとしていた。これで何度目だ。女性には特別興味がない、風俗に通うほど性的欲求が強くもない。

二股をかけられていた元の彼女、薫のせいで女性を信用できなくなったのは確かだ。このまま結婚もせずに人生を終えてもいいと思うくらいだった。だが、初対面の女性を殺したいとは思わない、なぜこんな残忍な夢を繰り返し見るのだろうか。タケルは泣きたいような気持ちにさいなまれた。

暗闇の中、タケルは掌を膝の上で開いて見つめた。歯を食いしばり、なぜ自分だけがこんなに苦しまねばならないのか自問自答したが、答えは出なかった。悔しかった、だが泣けるほどの悲しみよりも理不尽さで膝を叩いた。剥き出しの怒り、そんなものが自分の中に存在することをタケルはまだ知らなかった。

「僕は何もしていない、なぜ僕だけが……」

タケルが悪夢を見て毎晩恐れおののいている時より、遡ること約二年。タケルとは違う人生を生きている男はタケルよりも前から人知れず心に闇を抱えていた。

医学部大学院修士課程の鴻池武史はタケルとほぼ同じ顔。武史はエリートの中でもひときわ優秀な学生だった。そのうえ父親は私立病院の病院長をしていた。

戸籍では実子だったが、DNA的には両親が実の親ではないのではないかとずっと疑ってきた。医学部にいればなおの事、両親に顔立ちが似ていないことや嗜好や性格も全く違えば疑うようにもなる。何一つ不自由のない生活に飽き飽きしていたのかもしれない。

疑問に思えばDNA検査をすることなど、武史にとって極めて簡単な事だった。医学部時代の友人、広瀬に頼んで秘密にすることを前提に、自分の事だとは言わずに親子鑑定を頼んだ。四回生の時だ。どうせ、結果を見てその話になるだろうから後ほど話せばいいと思っていた。

その見返りはちょっとしたことで良かった。かわいい看護師を紹介することや、彼の所望する薬の横流しなどほんの些細なことだった。その結果はある程度予想をしていたとはいえ、残忍なものだった。