「それなら、話を変えて江藤さんに質問があります。あなたは、実子の薬師直美から多額の遺産相続を受け取りますよね。そのお金は直美が生きている時、一生懸命に貯めた命のお金です。

けれど、あなたは直美の葬儀で香典代も花代もその他のすべての支払いに対して、現在まで1円も支払っていないですよね。ただ焼香して、私達の行く所に黙って一緒についてきただけですよね。実子の雄二や姉夫婦、多くの参列者からは香典代や花代をいただいて感謝の一言です。

だが、実の父親である江藤光夫は実子の直美の為に何もお金を支払っていない。たまに悲しみを顔の表情だけで表現しているが、実親がしなければいけない行動とまったく違う事をしている。

一般常識で言えば、実子の為に感謝の意味もこめて、実親が葬儀代を支払うのが当たり前です。直美の命のお金をもらう権利を主張するなら、その前に葬儀代の半分を支払う義務を行ってからにしなさい。江藤さん、直美の為に支払いなさい!」

「何でそんな金を支払わなければいけないのだ。勝手に支払いを義務にするな。そうでしょう義姉さん」

それを聞いて、今度は姉が話しかけてきた。

「弁護士の立場からすれば義務では無いと言うけれど、江藤さんの元義姉さんの立場からすれば、実子の直美ちゃんの為に直美ちゃんのお金で直美ちゃんの葬儀代を江藤さんが支払うのは、元父親として当然の事と考えています。まずはひろみに支払いなさい!」

「なんて弁護士だ。俺は1円だって絶対ひろみに支払わないからな。そして、もし俺がもらえる金額が減額されていたら、あんたの事を訴えてやるからな。相続の手続きは終了したし俺は帰らせてもらう。そして直美のお金は、ありがたく俺の為に使わせてもらう。言いたい事はそれだけだ!」

そう言い残して、元夫は法律事務所から退出していった。そのあと姉は私にこう言った。

「あなた達が夫婦であった時に、2人の子供達は元父親の江藤さんに対してどんな思いで毎日一緒に生活していたのかしら? 多分、一緒に生活していたひろみでも分からない辛い思いを、長年心の中に隠しながら生きてきたのでしょうね!」

私は首を左右に振ってあとは黙っていた。

こんな状況で終了した遺産相続の手続きの書類を後日、姉が対象の銀行に提出してくれたおかげで、1週間後には私の通帳の中に直美の遺産相続分のお金が入金されていた。そして、元夫からは実子の葬儀代についての入金はまったくなかった。

私は解約された直美名義の通帳を見て、直美に対する感謝の気持ちと元夫に対する怒りが同時に心の中に葛藤を生じて、数日間は自分の気持ちを整理するのに苦悩したのだった。