見た目は思っていたより地味であった。痩せ気味で眼鏡をかけ、背もさほど高くはない。そのうえ色白だが、不思議と頼りない印象を与えない。水色のストライプのシャツにジーンズという、実に普通の恰好をしている上に、いかにも地方出身者らしいイントネーションを隠そうともしない。

そのくせ何故か浮世離れした雰囲気を醸し出していた。だが、少なくとも私の好みではない。私は少し失望したと同時にほっとした。

まあ、タロット占いを合コンで披露するような怪しい男が、この私の好みのタイプのわけないか。

私は一瞬のうちに神﨑静真を頭の中にある「いらない男」のファイルに入れた。

好みのタイプでもなし、二度と会わないだろうけどビールくらい注いでやろうと、ビール瓶を彼のグラスに傾けると、静真は、

「あ、自分で注ぎますよ」

と言って、私の手から瓶を取り上げようとした。私は慌てて、

「駄目ですよ、自分から女性に注いであげる男なんて、出世できませんよ」

と言って瓶を離すまいとした。

「あ、俺、出世とかしたくないから」

静真はそう言って、私の目を見て少し微笑んだ。

その白目はうっすらと水色で、瞳には茶色の部分が全くなく、漆黒であった。私は何故かその黒目と目が合った瞬間、吸い込まれそうになり、軽く狼狽え、手が止まった。

静真はその隙に私の手から軽やかに瓶を奪うと、私のグラスにさっさとビールを注ぎ、次に自分のグラスにはオレンジジュースを満たして瓶を置くと、隣の女子学生と話し始めた。

私は狼狽えた自分に慌てた。少し動悸がする。

静真は何事もなかったように隣の女子学生と楽しそうに話している。私の動悸は止まらない。

「なほ子ちゃん、どうしたの? あのね、吉田君がなほ子ちゃんと話したいって。隣いいかな?」

ニホが私に声をかけた。

私は、傍からは呆然として静真を見つめているように見えたであろうことが恥ずかしくなり、慌てて、

「いいよ、あたしがその人のところに行く」

と言って、ニホの言う「吉田君」がいる方へ向かった。

その時、吉田には女の子が二人、話しかけていたが、私が来ると彼はそれを適当にあしらい、私に隣の席を勧めた。

隣に座ったはいいが、吉田という人の話がなかなか頭に入ってこない。吉田は、「ラグビーをやっています」と自己紹介した通りの精悍な身体つきをしていて、それでいて爽やかな「イケメン」であり、とりあえず見た目は私の守備範囲に入るタイプだ。

それなのに、どうも調子がおかしい。相手の話に合わせるのが精いっぱいだ。

いつもなら会話の主導権を握ることだってお手の物であるこの私が、なんというザマだろうか。

せっかく獲物の方からやってきたというのに、こんなことは滅多にない。

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『夢解き』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。