超能力坊や

五歳のK君は片時もじっとせずあちこち動き回る男の子だ。

診察室に入るなり、おもちゃ箱をごちゃごちゃかき回し大声で独り言をいう。五歳半までほとんどしゃべらなかったが今では発音は不明瞭ながらずいぶんおしゃべりになった。

あちこち動き回っているK君にこちらから問いかけると無愛想に応じはするものの視線は合わない。母親が口を開いた。

「この子は、いくらぐっすり寝ていても私がそばを離れるとすぐ気づきます。不思議な子です」

そばでおもちゃで遊んでいたK君がいきなり

「音でわかるもん!」

と素っ頓狂な声を張り上げた。K君は音にすごく敏感でちょっとした物音も聞き分ける。

たとえ深い眠りに陥っても、敷き布団の微かにすれる音で母親の動きを察知する。微かな車の音で父親の帰りを言い当てるし、足音だけで祖父の来訪も告げる。

土地勘も抜群で、一度行った場所はたいてい覚えてしまう。K君が三歳半の時、広大なショッピングセンターに家族で出かけた際、父親が車を停めた場所を探しあぐねていると、舌足らずのK君は

「道にしるし(広告)があった……、エレベーターがあった……、パソコンの店……」

などとつぶやきながら車の場所を探し当てた。

K君は、落とし物や探し物を見つける名人でもある。

病院待合室の長いすの下や植木鉢のあたりから十円玉をめざとく見つけては小躍りした。外来診療を終えたある日、母親が

「私の携帯電話、知りませんか」

と血相を変えて戻ってきた。母の後についてきたK君はしばらく立ち止まり考えている風だったが、いきなり診察台の枕を払いのけ、携帯を探し当てた。K君は何事にでも疑問を持ち、「なぜ昼は明るいの」「なぜ夜は暗いの」「太陽は夜どこへいくの」「魚は何を食べるの」「車は何で走るの」などいろいろな質問を矢継ぎ早に浴びせてくる。

発音は不明瞭で、手先も器用でなく、よく転ぶ子ながら、K君は紛れもなく超能力坊やに違いない。