発達障害の子どもたち─それぞれが見せた驚きの手法と克服のエピソード─

かつて私が診療業務を行っていたおおぎみクリニックは、二〇一〇年三月末をもって二十三年の役目を終えた。その間、クリニックを受診した不登校のケースは二千例を超えた。

その中には、原因や背景がつかめない症例がかなりあった。

学校で何故かいじめに遭う、普通の子とどこか雰囲気が違う、片時もじっとできず動き回る、コミュニケーションやイントネーションが独特、特定のものに興味を持ち、抜群の記憶力と知識を持ち合わせながらなぜか浮いてしまう、こだわりが強く、思い通りにならないと癇癪を起こす、極端に不安が強くパニック状態に陥るものの、その原因や背景がつかめないなどのケースである。

その子たちは現在、発達障害と呼ばれている。知的水準は平均以上でありながら、社交面で課題があるケースは高機能自閉症とも呼ばれる。多動で落ち着きなく、衝動的で忘れ物が目立つケースにはADHD(注意欠陥・多動性障害)がある。

これら両者(自閉症とADHD)が併存したケースも少なくない。発達障害の勉強を改めてし直し、これらの子らと接しているうちにその能力の多様さにしばしば驚嘆した。これらのケースについてシリーズ形式で紹介したい。

一.見通しを立てる

三歳の女児であるUちゃんは不安げに母親の腕にしがみつきながら診察室へ入ってきた。発達障害の特性を有するUちゃんは、はた目には引っ込み思案で大人しそうだが、家では要求が通らないと、癇癪をおこして泣きわめく意地っ張りな子なのだという。

「お菓子食べたい」という要求が通らないと何時間も泣き続けるし、同じパジャマやスカートにこだわり、「これじゃない!」といつまでも駄々をこねる。要求が通らないと、昼夜の別なく泣き続けるので隣近所から虐待を疑われはしまいかと母親はいつもハラハラさせられていた。

母親自身、うつ病の治療を受けていたために甲高い泣き声にことさら敏感だった。保育園では比較的大人しくして聞き分けがいいのに、ショッピングセンターに行くとあれが欲しい、これが欲しいと要求がエスカレートし、最後には路上に寝そべって大泣きするパターンが繰り返された。

診察室で母とこんなやりとりを交わした。

「お母さんに対してだけ強情を張るわけですね」「そうです」

「よその人にはそういう要求はしない?」「しません」

「保育園でも駄々をこねることはないですか」「ありません」

「例外的に聞き分けのいい時がありますか」「前もって約束しているといいみたいです」

「買い物でもそうですか」「そんな感じがします」

「じゃあ、買い物に行く前に『これから買い物に行くけど、今日はこれとこれしか買わない』と前もって見通しを伝えてから出かけたらどうでしょう」「やってみます……」