「確かに、腎臓が1つしかなくなるので、将来、腎臓の病気や高血圧などには注意していく必要がある、とも言われた。けどな、ずっと苦しんでいる妹を見てきたので、先生の腎臓1つで彼女の人生が大きく変わる、と聞くとやっぱり手助けしたくなるもんよ。

うちの嫁さんも、はじめは先生のことを心配してくれて腎臓を提供することに反対していたけど、反対に腎臓をもらう側の家族の気持ちを考えると、それはそれで、やっぱり腎臓を下さいと言いたくなる、と言っていたよ。最終的には、嫁さんも承諾してくれたので、この夏に腎臓提供のための手術を受けることにしたのさ」

「すごいね。先生。俺だったら、そんな勇気が出てこないかもしれんよ」

「はっはっは。誰でも最初は怖いもんさ。もっと言うと、先生は今回のことをきっかけに"臓器提供意思表示カード"というものにも記入したんだ」

「何ですか、それは?」

「通称ドナー(※)カードとも言うんだけど、いいか、世界的に医療は進歩しているがまだどうしても治せない病気があるんだ。先生の妹の慢性腎不全だってそうだ。そういう時に臓器移植という手段をとることがある。腎臓みたいに複数あって、1つを取り除いても大丈夫、という臓器であれば、生きている人から臓器を提供してもらって、病気の人に臓器を移植するということが可能になる。

でも、例えば心臓なんかは1つしかないから、生きている人から臓器をもらうことができない。そういう時に、亡くなった人から臓器をもらって、手術を行うことがあるんよ。こういった臓器移植という治療によって助かる命が増えてきているのも事実なんだって」(※ドナー:臓器提供をする人)

「うちの婆ちゃんが死んだ時にはそんな話は無かったよ」

「そりゃそうじゃ。臓器を提供するにも条件があって、まずは生きている間に自分の臓器を提供する意思を示しておく必要があるんよ。その上で、家族の承諾があることも必要になる。さらに、特に心臓移植なんかは心臓が止まってから取り出したら心臓の機能がダメになるので、"脳死"といってまだ心臓が動いている段階で死亡と診断されて、心臓を取り出す必要があるんだ」

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『たすき』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。