「お待たせしました。白子焼きです」

十センチはゆうにあるなんとも立派なふぐの白子焼きの皿が置かれた。塩で味つけされていて、箸でつつくと薄皮がはじけてトロリとした身の部分がでてきた。

今年もいろいろあったけど、この花里との出会いが一番かもしれない。ピンチを救ってあげたような、こちらも救ってもらったようなで瞬く間に年の瀬を迎えようとしている。

「ねぇねぇ秀くん。亜美はね、豆腐サラダがいいな」

「じゃあ、俺は地鶏の唐揚げかな」

若者たちよ。お腹いっぱい美味しいものが食べられるといいよね。二十代、三十代はとにかく腹が膨れるまで食べるのが幸せだった。それがいつの頃からか、酒と一緒に新鮮で美味いものとじっくり向き合いたいと感じるようになってきた。

「俊平さん、この次は肉系にします? それとも魚介で何か」

肉もいいが、魚介で何かパンチのあるものがいいな。

「浜名湖の牡蠣はある?」

「もちろんですよ。大きくていいのが入っていますよ」

浜名湖の牡蠣は大粒でぷりぷりしている。新居(あらい)や舞阪の方では牡蠣小屋といって新鮮な牡蠣を焼いたり牡蠣飯にしたりして出すところもある。

「やっぱり牡蠣フライかな」

浜名湖の牡蠣は生では食べられないが、火を入れてもあまり縮まないのが嬉しい。フライにすると衣も加わるのでかなりの大きさになる。

「承知しました」

大将が厨房に揚げに行った。

「俊平さん、お酒はどうしますか?」

ヒレ酒が空いたタイミングでバイトの美紀が来てくれた。

「牡蠣には白ワインが合うのかな。でもヒレ酒のあとだしチャンポンになっちゃうね」

「それならこちらの日本酒はいかがですか? 『蝶の舞』の新作でワイン酵母を使った日本酒です。ワイングラスにお注ぎします」

バイトなのにお酒のこともちゃんと勉強しているんだな。嬉しくなって早速注文した。

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『微笑み酒場・花里』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。