●裁判所が(中略)別居時に子を連れ去り、現在に至るまで生活を共にしているからという理由だけで、親権者を判断している事案はない

●少なくとも代理人に弁護士が就任している事案で、親権争いに備えて、まず子を連れ去りなさいというようなことをアドバイスすることはあり得ない。親権に関する裁判所の判断基準を正しく理解すれば、「連れ去ったもの勝ち」(中略)「実子誘拐」「子の実効支配」などという批判が的外れであることは、当然のこととして理解できるからである

●一般には、(中略)特に監護の実績、主たる監護者が重要視され、また、子の年齢が上がるにつれて子の意思・子の希望も重視される

●監護の実績とは監護の継続性とも言うが、別居後の監護のことだけをさしているのではない。(中略)子が生まれてから(中略)現在に至るまで、誰が子の主たる監護者であるのかに着目して判断しているのであり、別居時に子を連れ去ったからといって、監護の継続性が認められるわけがない

●別居時のバタバタした状況で子を奪取したからといって、そのままの関係が尊重されるほど、裁判所の判断は安易ではない。連れ去ったもの勝ち、実子誘拐などという言説はこうした家裁実務を無視するものであり、不適切な見解と言う他ない

まず、分かりやすい点から指摘しておきます。以下では、弁護士による著作を3点見ていきます。まず、中村(2005)です。 

「別居に際して、子供を連れていくか、どうしようか。離婚になるかどうかはまだ確定的でなくても、もし離婚になったとき子どもを引き取る気持ちがあるなら、迷わず連れて出よう。(中略)夫や夫の親の言葉を真に受けて家を出て、「元気になったら子どもは渡してやる」という言葉を信じてそのつもりでいたら、それっきり子どもの親権は取れなくなった女性もいる」

また、財団法人日弁連法務研究財団(2007)は、冒頭の「はしがき」で以下のように述べています。

「実務家である弁護士にとって、親権をめぐる争いのある離婚事件で、常識といってよい認識がある。それは、親権者の指定を受けようとすれば、まず子どもを依頼者のもとに確保するということである。そのうえで、相手方(中略)にいかに問題があるかについての主張立証を尽くすということになる」

さらに大川・辻(2012)は、「ポイント」として「親権を譲りたくないときは、必ず子どもを連れて別居する」と指南しています。

従って、「代理人に弁護士が就任している事案で、親権争いに備えて、まず子を連れ去りなさいというようなことをアドバイスすることはあり得ない」というのは、極めて信憑性が疑わしい主張です。

では、それ以外の点についてはどうでしょうか。実は、誤りであるのは「連れ去ったもの勝ち、実子誘拐などという言説は、(中略)不適切な見解と言う他ない」という部分のみであって、それ以外は、概念論としては概ね間違っていません。