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第二章 拾って来た女

しかし、五日目の昼を幾分過ぎた頃だった。階下の喫茶店に奈美が降りて来た。

「大丈夫? 寝ていていいのよ」

「有難うございます。何もすることがなく申し訳無く思っています。私にできるのならお店を手伝わせて下さい」

「いいのよ、そんな積りで貴方をここへ連れて来たわけじゃないから。ゆっくりしていなさいよ」

美紀は奈美の病み上がりのような覇気の無い様子に気を使わなくてもよいと断った。

「でも、いつまでも寝ているわけにもいかないし、体を動かしている方が、気が晴れそうなので是非ともお店を手伝わせて下さい」

そんな奈美の強い申し出に、美紀は、無理はだめよと念を押し、申し出を受け入れて昼間の喫茶店を手伝わせることにした。

奈美は、少し硬さはあるものの注文の取り方もレジの打ち方もサイフォンを使ったコーヒーの淹れ方も教えてもらった通り無難に熟した。奈美が喫茶店を手伝い出して六日ほどが経った頃だった。

二人はいつも漁火が喫茶店からスナックに切り替わる僅かな時間を利用して夕食を摂った。

「ママ、夕食のあとすぐにも寝られないし、ママのお陰でそんなにすることも無いの。下から楽しそうな声が聞こえて来るし、良かったらスナックも手伝わせて下さい」

「体調は大丈夫なの? それと私の方は何日貴方がいても全然大丈夫だけど、東京の御家族が心配しているんじゃない? お家にここにいるって連絡を入れた? 娘の親というのは心配なものなのよ」

「はい、これで昨日連絡をいれました。静養も兼ねて伊勢志摩のお友達の家にお世話になっているのでしばらくは帰らないって」

奈美はそう言ってピンク色のスマートフォンを示した。

「そう、でも貴方の言うように静養を兼ねてならあまり無理をしない方がいいわね。スナックの接客もこれで結構しんどいものよ。そうね……、あまり無理が掛からないようにカウンターからは出ないというのならどうかな」

美紀はそう言った。

混み出す午後の八時過ぎには確かに漁火も接客が人手不足で手薄になる。美紀には有難い申し出だった。

その日から奈美は美紀の言った条件の許にスナック漁火にも出るようになった。その間も、美紀は奈美の着替えや日常品を揃えるために鵜方に買い出しに行くなど母親気取りで細々と世話を焼いた。