「要するに刑事さんのおっしゃりたいことは、捜査で大学に入るには、裁判所に捜査令状を申請して取らなければならないが、それができないということですね」

「そのとおりです。さすがに推理作家ですね。説明する手間が省けて助かります」

「でも電話してこられたほんとうの理由は、まだうかがっていませんわ。大学に捜査に入れなくなったことをわたしに報告するためにかけてこられたんじゃないでしょう」

「いやいや、そこまで話を進めていただけますか。じつはですね、ちょっとした情報を耳にしたんですわ。それを調べに行こうとして、大学の受付で構内に入る手続きをしようとしたところ、拒否されたんです。しかたがないのでいったん引き上げて係長などに相談すると、もし犯人を捕まえても、刑事事件として起訴はできないのだから、大学に入るのはやめろといわれたんです」

「そういうことですか。それで、ちょっとした情報というのはどんなことですか」

「事故の前日のことですがね、高槻さんが駐めていた駐車場で不審者を見かけた人がいるという話なんです。見かけたのは、構内の清掃などをしている雑務係の人だそうですが、その人からくわしい話を聞きに行こうとしていたんですよ」

「その人が電話かなにかしてきたのですか」

「いえ、本人じゃありません。匿名で電話がかかってきたんです」

「それで、わたしに電話されてきた理由はなんですか」

沙也香は笑いながら再度聞いた。

「すみません。気を持たせまして。こんなことを一般の人に頼むのはどうかと思うんですが、もしあなたがW大学に行かれる用事があれば、いま話した目撃情報を聞いてきていただけないかなと思いまして」

松岡の言葉に沙也香は考えた。刑事がこんなことを部外者に頼むことはまずないだろう。

※本記事は、2018年9月刊行の書籍『日出る国の天子』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。