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“What the f**k is goin’ on here?(一体何ごとだよ?)”

ストリートで暇な時間をつぶす若者たちの目に、一瞬、警戒心がよぎったように見えた。

彼らは一斉に話を止め、鋭い眼差しで私たちを見つめる。ちょうどいま、プロジェクトの補修作業が行われている。工事現場で働く男たちまでもが、私たちの行動に目を見張る。何かが起こるかもしれない。

好奇心露わに、私たちの行動を観察している。通りの左側にはBarber Shopやコインランドリー、Deliや服屋、グローサリーストアなどが軒を連ねている。店員や店の客たちも私たちの行方を興味深そうに目で追う。

一方、通りの右側には、高層プロジェクトがひしめき合っている。ビルディングの小さな窓にはストリート・ウォッチングを楽しむおじいさんやおばさんの姿がちらほらとある。

彼らの目には、何が映っているのだろうか。

おそらく何十年もの間、ここハーレムで暮らしているにちがいない。あったはずの店が消え、また新しい店が現れる。ストリートを行き交う人々の表情は昔と比べ、変わっただろうか。

ビルディングは改装され、通りもきれいになった。彼らはハーレムの歴史と時代の移り変わりを、その目にしっかりと焼き付けてきたのだろう。Hoodを牛耳る若者たちが、一人のアジア人女性と、こうしてハーレムのストリートを歩いている光景も、彼らの記憶の1ページに収められるのかもしれない。

ストリートへ出てから2ブロックほどでLiquor Storeに着いた。店内に入ると、一人の男性が腕を組みながら立っていた。その厳しい表情は、私たちに隙ひとつ見せない。透明の頑丈な板に仕切られており、私たち客は、直接酒を手に取ってみることはできない。

壁には、何十種類もの酒が並べられている。酒を選んでいる間、店員は探るような目付きで、私たちの行動一つひとつを見ている。

「何飲みたい?」

Bに尋ねられ、私は迷わず

「HennesseyとYellow Alize」

と答えた。「“Thug Passion”か。Okay、そうしようぜ」。“

Thug Passion(サグ・パッション)”とは、ラッパー2Pacが作り出した酒といわれている。彼は西海岸を代表する伝説的ラッパーだが、1996年、ラスベガスで、マイク・タイソンのボクシング試合観戦後に何者かに銃撃された。

Bが酒を注文すると、店員は仕切りの下部分にある窓口から酒のボトル2本を差し出した。Bの仲間がおもむろにジーンズのポケットから分厚いドル札の束を取り出す。

「すっごいお金、持ってるね」。

私が冷やかすと、彼は少し得意気にBillを一枚一枚数え始めた。支払いを済ませ、外に出ると、Bも負けじとドル札を数えていた。

そして、ジャケットの内ポケットから取り出した車のパンフレットを眺めながら呟くのだ。

「どの車がいいかなー。すでに3台持ってるけど、あと、もう1台欲しいんだよな」