この事例から得られる教訓は、平時から規定・規則で社内を制御し、外部組合や政治家の介入を許さない組織づくりと、労務における正常点の監視と異常兆候の感知に対していかに鋭敏な感度を保てるか、この2点に集約されるのです。

それらの営みを愚直に繰り返して得た信頼関係こそが、労務問題において外部組合が仕掛けてくる予期せぬ事態への対応の基盤となるのです。

第2章­ 人材育成の実際:労働問題の事例2

【発端】

同じくデリー近郊にある別の会社でのこと。

マネサール工場の組合は、同社グルガオン工場とは別の組合である。グルガオン工場の企業内組合をマネサール工場の労働者たちは〝御用組合〟と見ており、そのため別の組合を組織した経緯がある。

なお、マネサール工場の組合はAITUCを上部団体とし、その指導を受けている。マネサール工場の組合は正規労働者によって組織されるが、請負労働者の処遇にも関心を持って運動している。

その一つの理由は、インドでは地縁・血縁、過去の身分制度による繋がりが強く、正規と請負にまたがっての人的繋がりが、利害の対立よりも強く存在するからであった。日頃から、請負労働者の会社への不満が蓄積されていた。

主な理由は、賃金(正規が請負の2~3倍)や、生産性向上へのプレッシャー(ミスをすると給与がカット)であった。また正規労働者も、インフレ率を下回る昇給率に不満を持っていた。

【ストの内容】

上記のような背景がありながら、2012年7月現場の作業者が班長に手を上げたため、会社がその作業者を即刻停職処分にした。そのことに端を発し、AITUCの扇動により正規・請負労働者を合わせた大暴動事件に発展。人事部のインド人の部長が死亡した。

【その後】

9月末、マネサール工場の賃金交渉が3年で最大70%賃上げで折り合ったことが報道された。また噂では、70%程度であった請負比率を20%程度にする方針に改められた。

さらに、正規労働者を採用する際には、人事部によるスクリーニング(人材見極め)を徹底することになった。死亡者を出した痛ましい事例ですが、2020年からはすでに同一労働同一賃金がインドでも実施されています。

共産主義組合などのナショナルセンターは、国連人権規定など正論を盾に民衆を扇動してくるので、とにかく、法律に従った社内規定と仕組みづくり、加えて州政府労働局から情報を得ながら事前対策を打つことを忘れてはなりません。

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『インドでビジネスを成功させるために知っておくべきこと』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。