彼は、片山先生のブレーンであり、今でも巌松会に顔を出す、片山派のお目付け役なのだ。深い沈黙が訪れた。しばらくして風間が静寂を破った。

「戸隠仁聖と佐藤大全が同一人物であるとしたら、彼は表の顔と裏の顔を持っていたことになるね。おまけに片山派内部にスパイがいたようなものなのだね。君が腰を抜かした理由がよく分かったよ。ところで一つ聞いていいかい?」

「なんだい」

「『がんしょうかい』って何?」

「君は何も知らないのだな」

村上は呆れたように呟いた。

「片山派の代議士たちの作っているクラブのようなものさ。俺のようなペーペーが行っても相手にされないところだよ。まあ、代議士先生が、そこで情報を交換したり、直接会って戦略を練ったりするところだと思えばいい……」

風間が帰宅したのは、午前二時を回っていた。村上は風間を玄関まで見送ってしまうと、崩れるようにソファーにへたり込んだ。ウイスキーの水割りを作って、たてつづけに二杯飲んだ。

頭の中には先ほどの電話が引っかかっている。秘書仲間からのうろたえたような電話だった。調べてみたら、正友商事から一億二千万円もの献金があり、そのうち一億円を村上の名義で外資系の銀行に預けてあるのだが、どうしようかというのである。

どうしようもこうしようもないものだと思ったが、詳しく聞いてみると、高岡代議士は残りの二千万円をポケットに入れてしまったのだという。

清潔を売り物にして、国政改革を目指す代議士が何のざまだと思ったが、取り返しはつかない。

「まあ、成るように成れだ」こう呟くと村上はそのままの格好でソファーに寝てしまった。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『百年後の武蔵野』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。