二本の毒牙の痕があり、どうやらマムシは小指の上の方から咬みついたようだった。靴を履いていればよかったのだが、素足のまま突っ掛けを履いていたのが災いしたらしい。患部や足の甲が腫れ上がっている。そして刺すように痛い。

多少、ふくらはぎの辺りまで浮腫んでいたのは、救急車の中で足を縛ったからだろうか。医師は終始、無言のままだった。傷口の周りを消毒したかと思うと、針のようなもので足の甲の方までチクチク刺した。どうやら毒素の混じった血を滲み出させているようだった。

血を滲み出させては、ガーゼで拭いさる。同じことを何回も繰り返した。痛いという感覚はなかった。大島がいっそう顔をひきつらせたのは、恐怖心のためである。

足先から大腿部にかけて痺れがひどくなってくる。横になっていると、力の抜けた下半身が麻痺してくるようだ。マムシは人を殺傷するほどの毒を持っている。

マムシに咬まれ、手当てが遅れれば命が危ない。重症化すると、腎不全や心不全に陥って死に至るケースもあるのだった。大島の意識の中には、マムシへの恐怖心が渦巻いていた。

子供の頃、マムシだけは気をつけろ、とよく両親から言われていたものである。屋敷の周りは、マムシの生息地そのものだった。田舎ならではの畑や田んぼ、水辺などが広がっていたし、人々の生活環境の中でマムシはごく普通に生息していた。

マムシは体長五十センチ前後、茶褐色の地に銭型の斑紋が左右に並んでいる。頭は三角形。上顎に二本の長い毒牙があり、毒性は強い。夜行性で、昼間はじめじめした窪地や草むらの陰に身を潜めている。

繁殖形態は、蛇には珍しく卵胎生である。腹の中で卵を孵化させ、直接子供を産む。妊娠中の雌は、子供を育てるために昼間でも盛んに活動し餌を探す。

体温調整で、日光浴もする。人と遭遇するマムシに雌が多いのは、そのためらしい。

当然、咬傷被害も増える。

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『青二才の時間の幻影』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。