「エステさん、あなたがフェラーラを認めた最初の人なのですね?」

「私は彼のことを天才と思っていたからね、なんとしても大成させたい一心だった。緩やかな起伏が続くフィレンツェ郊外の葡萄畑の中に、小さな一軒屋を住まい兼アトリエとして提供させて頂いた。そういう環境を得て気持ちも落ち着いたのでしょうな、一年ほど経った頃、彼らに子供が生まれたのです。それも美しい……女の双子だった」

「それが……私と……お姉さんのユーラさん?」

「そう、フェラーラ夫妻は姉をユーラ、妹をユーレと名付けましてね、画業にも一段と力が入るはずだった。しかしコンテストに応募した絵は、相変わらず良い成績を収められなかったんだ。子供が育つにつれ、フェラーラもいつまでも私の世話にはなれないと思い始めていましてね。ある日のこと、彼が私の画廊に姿を現し、評価されない自分の絵について、声を荒らげるような議論になったことがあったのですよ」

「フェラーラが評価されなかった?」

宗像は肩をすくめた。