絶頂期のクライアントは、ある者は倒産しあるものは広告出稿をひかえた。営業マンによる投げ込みや電話営業に切り替えていた。

そして最後の望みであったメガネのチェーン店が倒産した。今まであまり営業を行なわず、広告代理店任せだったのだ。このメガネチェーンだけで年間3億数千万もの売上げを維持してきたのだ。

事実上倒産が決まり、債権者会議での代理店は優先順位が低く、この代理店も連鎖倒産した。工場という財産をたてに、両親は金策に奔走した。

しかし、銀行の貸し渋りにより、結局商工ローンに手を出した。そして、商工ローンの強引な取り立てが始まった。人件費が先だという信念で従業員の給料を払おうとしていた両親は、車で移動中、心労がたたり居眠り運転による非運な事故死となった。

華奈の幸せは音をたててくずれ去った。華奈は病院で目をさました。今まで影をひそめていた心因性の不整脈が再発したのだった。

すでに、実家で葬式をすませていた。借金が一人娘である華奈に集中した。弁護士を立てて、工場・機械・土地等の財産を売ってもまだ見通しが立たない実状だった。とにかく、今の一人暮らしのアパートは撤収して荷作りも終え、体一つで実家へ帰る最中の出来事だった。