禅は、専務の言う事も理解できた。しかし、今は踏ん張り時と思っていた。

「専務、そこを何とかお願いしますよ、専務のお力で」

専務は呆れた顔で、黙って首を振った。それを見た禅は頭を下げた。

「親父亡き後、専務だけが頼りです、宜しくお願いします!」

専務は、禅のその気迫に押されて呟いた。

「分かりました。何とかしてみます」
「ありがとうございます!」

禅はそう言うと、専務の手を両手で握りしめた。専務はため息をつくと、社長室を出て行った。

月日の経つのは早いもので、父の死から一年ほど過ぎ、一周忌を終えたある日、禅の元を賢一が訪ねてきた。賢一は大学を卒業すると、警察官僚、いわゆるキャリアだった為、一度地方の県警に配属されていた。それから数年……昇級し、今度は警視庁捜査第二課に配属された。

「久しぶりだな」
「ああ、久しぶりだ」

二人はお互いの風貌の変化に驚いた。禅は身長が一八五・六センチ、身体は昔の細さに筋肉が付き、がっしりした感じだった。顔は相変わらず二枚目だったが、苦労をしたのか、年齢の割には少し老けて見えた。

賢一の方は、身長が一七二・三センチでがっちりした体格になっていた。短髪に決められた髪型とビシッと着こなしたスーツ、そして頭の切れそうな顔がいかにも優秀な国家公務員という感じだった。禅は賢一の変化に驚いた。

「随分雰囲気が変わったな、何か運動をやっているのか?」
「いや、特には……健康の為にスポーツジムに通っているくらいだよ」
「そうか……」
「そんな事より、親父さんの事聞いたよ、何で連絡をくれなかったんだ?」

禅は下を向くと、黙り込んだ。