「従業員は家族同然、みんなを食べさせていくのが社長の務め!」

そんな父の気持ちを従業員の大半が理解していたのだが、中には、それに甘んじて、ぬるま湯につかっている奴もいた。

「専務、どうですか?」
「何がですか?」
「会社の業績の悪化の事です。どう考えられます?」
「まあ、不景気ですからね……仕方ないかと」
「仕方ないでは会社が潰れてしまいます」
「そうですよね……」

禅は、他人事のように言う専務を見て、こいつに頼っていてはダメだと確信した。

「明日から、自分が営業に出ます」

それまで、話を聞いているのか、いないのか?という感じだった専務が驚いた顔をした。

「え? 社長がですか?」
「そうです、昔からの付き合いだけでは今の業績を回復させるのは難しい。新規開拓が必要です。先はどうなるか分かりませんが、軌道に乗ったら営業部を新設しようと思います」
「営業部ですか?」
「そうです、不景気だからと言って、待っていては何も変わりません。それどころか、このままでは会社が持ちません」
「そうですね……」
「父は、従業員の方々を家族と言っていました。その意志を継いで、私は家族を守らなければなりません。専務、留守は任せますので、宜しくお願いします!」

そう言って頭を下げる禅を見て、専務は恐縮した。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『アリになれないキリギリス』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。