「は、はい」

「これで万事上手く行く、全てが上手く行く…」

剛史は自分に言い聞かせるように呟いた。禅は不安な気持ちで一杯だった。その気持ちを消すように自分に言い聞かせた。

〝大丈夫だ、上手く行く、大金を手に入れたら止めればいい、そして復活するんだ!〟

その後、禅と剛史は、何度か取引をして数百万円の金を手に入れていた。

「どうだ! 禅、やったな!」

「ええ」

剛史の言う通り上手く行っていた。今は、ほとんど仕事をしなくても金が入って来る。そして毎日酒を飲み遊んでいる。何不自由なく、全てが上手く行っている。

しかし、禅は心配だった。それは、かつてバスケットで全て上手く行っていた自分が、全てを失った時の事が頭の中にあったからだ。バスケットを始めてから、自分の思うままにスターに昇って行った。しかし、一つの歯車がかみ合わなくなった時に全てを失った。それが禅の中にトラウマのようにあった。

「剛史君、いつまでやるんですか?」

「ん?」

「いつまでやるのかと思って…」

「どうしたんだ? そんな不安そうな顔をして?」

「いや、何となく…です」

そう言って下を向いた禅に剛史は言った。

「このまま行けば、楽をして億を稼ぐのも夢ではない。大丈夫だ、心配するな、ネットで個人を相手にしていたら足が付くが、今は竹田さんが付いている、何も怖い物はない」

剛史は禅の肩を叩いた。禅は、昔の事を思い出していた。それは剛史が子供の頃、将太の力に守られて粋がっていた時の事だった。

〝子供の頃と、全く変わっていない〟

そう思いながら呟いた。

「そうですよね…」

禅は不安な気持ちを押し殺した。

〝真面目に頑張っても報われないヤツがいる。しかし、世の中には楽をして儲けているヤツがいる…どちらがいいのか?〟

禅は、やるせない気持ちになった。才能を持って生まれ、さらに努力をしたが、怪我をして終わってしまった。もし怪我をしなかったとしても…? 世界は広い、一流になれるという保証は何もない。しかし、今はどうだろう? 大した努力もせず、コネを使って少し動くだけで大金が入る。

〝頑張った奴が報われず、頑張らない奴が報われる…世の中はどうなっているのか?〟

その答えは禅自身、よく分からなかった。

〝楽をして稼げるなら、その方が良いのではないか?〟

そう自分に言い聞かせた。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『アリになれないキリギリス』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。