もしかすると──。ふと柚木は思う。

華は死にたがっているのかもしれない。あれだけ引きこもっているのだから、精神もどこかおかしくなっていても不思議ではない。父のせいで巻き添えをくらって死ぬのは、彼女にとって渡りに船だったりはしないだろうか。

普通なら、学校なりデートなりと忙しくしている時期なのだ。引きこもりなどしているほうが悪い。巻き添えをくらって死ぬのは、運が悪いの一言で片付けられはしないか?

そう考えると、柚木はふっと肩の荷が下りたように楽になった。意志疎通もままならないような華を説得しなくても済む、と思ったのだ。だいたい屋敷から連れだせたとして、三日間華をどこにおいておくというのか。自分の狭いアパートは、人を泊めるようにはできていない。

それに自分だけの空間に、気の合わない華と三日間も顔をつき合わせて過ごすなど、想像しただけでも気が重くなる。大人げないと言われようが仕方がない。生理的嫌悪はいかんともしがたい……。自分は何も聞かなかった。そういうことにしてしまおう。スーパーに足を踏み入れたとき、柚木の心は決まった。今日はカボチャが安いようだ。

ゴツゴツした重い塊を手にした瞬間、予期せず大きなくしゃみが出た。脇を通りかかった男が、足を止めて柚木を見る。見られているのに気付き、柚木はカボチャをカゴに入れると、そそくさとその場を去った。男の視線は、そんな彼女を追ってしばらく離れなかった。