僕は神谷君の言葉を軽く受け流したが、外科医に向いていると言われるのは長谷川先生以外では初めてで内心はとても嬉しかった。

「でも、確かに手術は楽しいよ」

手術は楽しいし、僕は手術が好きだ。うまく言えないけど、神谷君にはごまかさずに自分の手術に対する思いを伝えたくなった。

うまくいったのは2回目の執刀の時だけであとは怒られてばかり。助手に入っても怒られてばかり。その時は本当に辛い。でも辞めようとは思ったことはない。

「またいろいろと教えてください」
「うん、一緒に勉強しよう」

僕の手術への思いを伝えると、神谷君は帰って行った。ここ最近の僕の手術のできはあまり良くなく、決して順調とは言えなかった。でも気持ちでは負けていなかった。

失敗してもそれをノートに書き留め、「次は絶対にできるようになるぞ、いや次は必ずできるはずだ」と前だけを向いて、上達だけを思い描いて、毎日を過ごしている。そうやって一見不調であるにもかかわらず前向きでいられるのは、神谷君の存在があるからかもしれない。