「短編コンペでは、たいてい俺かリコの作品が最高評価を競っていた。川島はその次あたりで最高評価を得てはいなかったけど」

「そうね。川島くんの作品はコンペでは最高というほどの評価は得なかった。でも単純に『面白い』という寸評は、いつも川島くんの作品が一番多かった。あるテーマが与えられたとき、そのテーマを聞いた誰も気がつかない潜在的な興味と期待を嗅ぎ分けていたと思えるの」

「例えば?」
「そうねぇ。例えば『告白』というテーマでのコンペを覚えている?」
「ああ覚えているよ。あの時は確かリコが最高評価だった」

「おかげ様であれは評価してもらったわ。でも、あのコンペでみんなは、例えば心の内面の吐露、あるいは背負っている贖罪(しょくざい)意識、というような心の襞をモチーフにした作品ばかりだった。でも彼の発想はまるで違った」

「ああ、確か子供が主人公のコメディファンタジー風の作品だったね。その子がなぜかいろいろな大人の知られたくない秘密を知っていて、その本人に成り代わって告白してしまう。それで周りの大人たちにてんやわんやの大騒動を引き起こす、という話だね」

「そうそれ。あの作品は誰にも知られたくない秘密を突然暴露されてしまったときの、あるいは知ってしまったときの、人間の慌てふためく反応の滑稽さを浮き彫りにしていた。次々と反応が連鎖して大騒動になっていく。しまいに、その子をなんとかしようと大人たちが結束を試みるのだけど、知られたくない秘密をお互い暴露されあった疑心暗鬼から、結局は団結できないという結末ね。ストーリーに淀(よど)みがなく、一気に読めてしまう。彼は『告白』という言葉の持つ懺悔(ざんげ)的なニュアンスから離れて、知る側の『のぞき見趣味』と知られた側の『動揺』『羞恥』『恐怖』をどう料理すれば面白い話になるかツボを嗅ぎ分けていたと思うの」

理津子は昨日の出来事のように子細な分析を披露した。それほど、川島の短編が印象深かったということだろうか。

「ふーん。リコらしい緻密な分析だね」
「あの作品に限らず川島くんが狙っているのは、まずはエンタメ性ね。彼も挨拶で宣言していたけど」
「でも芸術性はどうなんだろう」

「当時の彼にとって、それはどうでもよかったのよ。結局、川島くんがサークルに入った目的は、いわゆる文学に興味があってということではなかったと思うの。それにコンペでの目標は勝つことではなかったのよ」

「と、いうと?」

「彼が求めていたことは単純に『面白い』という反応と文章スキルよ」