ライジング・スター

川島が受賞した青陵(せいりょう)文学賞は、中堅どころの老舗出版社が企画している新人発掘を目的とした文学賞で、芥川賞ほどメジャーではないが、それなりに存在感のある賞だ。対象は純文学のジャンルになる。

正直なところ、川島の受賞には驚いた。なぜなら、川島の受賞作はエンターテインメントの要素がかなり盛り込まれているファンタジックな恋愛小説で、表現は平易で読みやすく、一般受けする大衆文学系だ。

純文学に区切るには難がある。穿(うが)った見方をすれば、出版業界も活字離れで厳しい折、売れ筋になりそうな作品をピックアップしたい主催社の意向が働いたとも思える。この出版社では新しい編集部長になってから方針が大きく変わり、いわゆる売れ筋作品にシフトしているという話を聞いている。以前は売り上げにこだわらず、純文学系の作品を温かく見守る社風があったのだが。

川島の才能はある意味、大学時代の文芸サークルの誰もが認めるところであった。ある意味と言ったのは、彼の作品はサークルで主にテーマにしていた純文学のジャンルとは異なっていたからだ。作風は文学的表現を凝らして芸術性を高めることより、いかに面白いストーリーを創作するかに主眼が置かれていた。難解な表現を避け、平易簡潔な文章と巧みな筋書で読む側を引き込んでゆく。

もともと川島は芸術としての小説に興味があってサークルに参加したというより、自分の作品がどれだけメンバーから「面白い」と認知されるか確かめる目的で入ったのだと思う。多作速筆で、十分なレベルの短編を半日で二作書き上げたこともあった。おそらくストーリーは早々と頭の中で完結しており、それを書き出すだけだったのだろう。

だが、それは俺の目指している方向とは肌合いが違った。違うからこそお互いを認め合い、俺が大学を辞めてからも友人としてつきあえたのだと思う。

受賞と同時に川島の受賞作は出版された。その話題性と出版社の積極的なプロモーション、そして何より「面白い」という評判がこの作品を一気にベストセラーに押し上げた。

川島には執筆依頼が舞い込み、時々メディアにも顔を出すようになり、早くもいわゆる流行作家の仲間入りを果たしつつあった。その頃から、次第に川島との距離ができていった。