絵画教室

二人で、そんな会話をしながら、私は高校時代の頃を思い出していた。私は独身だけれど、これまで付き合った人が、全くいなかったわけではない。私にもそれなりの恋愛物語があったのだ。

あれは、今から四十九年前。私は新入生として高校の門を入っていった。道の両側には桜並木があって、優しい薄ピンク色の花びらが、ひらひらと静かに舞い降りていた。私は、これから始まる新しい学生生活に胸をふくらませていた。

一学年は全部で八クラスあって、私は一年三組に加わることになった。クラスには生徒が四十名いて、男女の割合はほぼ半々だった。

私の席は一番窓側の前から五番目だった。私の席からは、学校のグラウンドが見えて、グラウンドを囲むようにして植えられている桜の花がとても美しかった。私の中学からも数名がこの高校に入学していて、顔を知っている人がいるおかげで安心感があった。

部活は、私は美術部に入ると決めていた。私は子どもの時から絵を描くのが好きで、中学時代も美術部に所属していた。四月の半ばになって、私は美術部を訪ねていた。美術部は特に部室というものがなく、活動は放課後の美術教室を使って行われた。スケッチブックと画材は、クラスルームのロッカーに収めていた。

私の高校は、必ず部活に所属しなければならないという規定はなく、部活をしたい人だけが各自、自分の好きな部活に所属することになっていた。だからクラスの半分くらいの人は、放課後は自宅へと戻っていった。

放課後の美術教室を訪ねると、先輩たちが八名集っていた。

「こんにちは」

「はい」

「あのう。美術部に入部したいんですけど」