三 へんろ旅に当たっての心構え

出会いの挨拶と心構え

といっても、いざ出会った際に挨拶をするとなると、それは案外難しいもの。一ついえるのは、定形的・儀礼的・形式的な心のこもらない挨拶はやめる事です。

出会いの瞬間は、双方とも姿・形・表情・言葉の抑揚・しぐさ等で、悪意・敵意・危険・安全等を察知します。

すなわち、出会いは一瞬の知識・智慧・本能で即応する自然体での個人的な人間力。挨拶は、出会う双方の安全・安心を確認する行為であり、自分は安全で危険なものでない事の意思表示です。

であれば、挨拶は目礼・会釈・しぐさ・表情・言葉等の全てであり、無視や無言は心の貧しさを表す事になるでしょう。言葉遣いにおいても、儀礼的、定型的でなく、時々の空間を生む自然体の言葉、心遣いが必要です。そして当然、先を急ぐ事の多いへんろ同士の場合は、お互いの迷惑を考えて長話をしない事。

また「なぜ、へんろを?」等と、立ち入った事は聞かないのがへんろ同士の暗黙の約束です。とはいえ、自分から進んで話す、そしてそれを聞くというのは悪い事ではありません。

へんろ旅ではまた、地域の方たちとの出会いも日常茶飯です。その際は、人それぞれの個性を尊重する事、生活環境・文化の違いを意識する事が大切と考えます。

へんろは、地域の人の日常生活の道を歩かせて頂いているのですから、出会う人には何よりも感謝の心で挨拶します。

人と人との関係で大切なコミュニケーションは挨拶から始まりますが、そこには注意が必要です。先ほども書いた様に、思想・宗教・宗派、そして様々な思惑、中にはへんろ嫌い等という場合もありますので、その点を考えて対応する必要があります。

たとえば、病気・怪我等でリハビリ中の人等や、単に他人の接触をあまり好まない人もいるのです。

地域の方との出会いという点では、へんろ旅に特有の「お接待」の文化も忘れるわけにはいきません。

道すがらの皆さんが、へんろに対して心づくしのお布施をする。それがお接待の基本であり、そこには実に様々な形と、して下さる方の様々な思いが込められているものです。これについては、主に第三章に私の体験を中心として詳しく綴っていますが、本当に数えきれないほどの出会いがあります。