序章

雨か雪、霰か雹。 空の方に手を挙げた。 雲の層から頭上に降って来るモノか。 それとも地球の外から降り注いでいる電子か素粒子に似たモノか。

宇宙線ならばきっと体をすり抜けて地中に突入しているはずだから、顔に受けても感じはしないだろう。しかしたった今、そういう形象のモノが何か直線的にピチッと頬に当たり、そのまま下に落ちたのだ。(なんだ?)

下に落ちている欠片を手に取る。親指と人差し指でそれを拾い上げて目を凝らす。 フウセンカズラの種とそっくりなソレには文字が書かれているではないか。 しかもまだ、連続的に顔めがけて落ちてくる。

康一朗はその現象の非日常性を棚上げしたままに、夢中で文字を並べるのだった。

BLUEWHALE

第一章

懐かしい一軒家は、屋根が私の背に近づいて低くなった。 ただ、そんなことを改めて考えたのは今回の訪問が初めてだったろう。

おばあちゃんは、いつでも私を見守ってくれる存在だとそんな風に思っていたから。

だけど、今回はいつもと違うんだ。大人の年齢に近づいて、大人みたいな考え方が私の頭には入ってきている。

(おばあちゃんちが一番楽しかったの、いつだったかな?)

今よりも昔、周りに生えている雑草だって緑色に輝いて綺麗に見えたもの。 おばあちゃんは私が泊まりに来ると嬉しそうな顔をしてくれた。 私がおばあちゃんの布団のところに行って、綺麗なビーズを拾った話をしたら、おばあちゃんはお裁縫箱の中から小さな箱を出して私に見せた。

蓋を開けると中にはボタンがたくさん入っていて、

「おばあちゃんのこれも綺麗でしょ?」といって歯を見せた。

私は「出してもいい?」と聞いて、返事も聞かぬうちにおばあちゃんの白い掛布団の上に広げたの。おばあちゃんは、好きなものがあったらあげると言ってくれた。私はおばあちゃんに抱きついて赤い真円に近いボタンを選んだ。

「それじゃあ、私のビーズと取り換えっこね。おばあちゃん」

「取り換えっこじゃなくてもいいよ。そのボタンは杏南ちゃんにあげるから、今度来るときにはそのビーズをおばあちゃんにも見せてね」

その日は嬉しくておばあちゃんの布団の横で寝かせてもらった。

次の朝、パンにハムと海苔を挟むおばあちゃんちの独特な朝食を食べた後、家族で散歩に出かけた。おばあちゃんは私の手を取って「転ばないように」と言って一緒に歩いてくれた。私は鼻歌を歌って、たまにおばあちゃんの顔を見上げる。私が見上げるといつもニコニコ笑っていた。