「有田? ああ、地域課にいる新人の有田ですか?」

「そうだ。彼女、国家一種に受かっていたんだが、刑事になりたくてキャリアの道を捨てて警官になったみたいだ。あの子の親父さんと知り合いでな」

「そんなに優秀な人が刑事ですか。刑事のどこがいいんですかね」

「まあ、人それぞれだからな。そこでだ、この有田君を刑事課に入れてみたらどうだ?」

「有田をですか? うちの署に来てまだ一年も経ってないのに、いきなりはどうかと思いますが」

「実務経験のことか? そこは君が鍛えればいい話だよ。彼女を刑事課に入れる理由は他にもあるぞ」

「他にも、ですか」

「ああ、正直言って、今の君には味方がいないだろ? 自由に使える駒が。彼女をうまく使ってみたらどうだ?」

「そういうことですか。確かに味方はいませんが、下手な奴が味方にいても足手まといになるだけです」

「まあそう言うな。彼女の親父さんな、娘さんが警官としてやっていけるのかとても心配していてな。佐伯君の下であれば私も太鼓判を押して親父さんを安心させてやれるんだがな。どう使うかは君次第だ。検討してみてくれないか」

「承知しました。では早速地域課長に根回しをしておきます」

「そんなものはいらないよ。私が署長に一本電話を入れておくから。頼んだぞ」

「わかりました」

佐伯は電話を切った。角田の「検討してくれ」は検討ではない。命令だ。佐伯は早速有田里香の身上記録を確認することにした。角田の電話から二日後、佐伯は直接有田を呼び出して個別面談を行った。