「ありがとう。みんなが春を楽しみに待っていてくれてるんだから、今年も頑張らないとね。フルールはどう? 春は好き?」

フルールが、やわらかい声で鳴きました。それだけで、リリーには彼女の言いたいことがきちんと分かります。

「そうね。うすく雪が積もって、植物がお砂糖をかぶったみたいになるのも、すてきよね」

すると、今度はリリーの頬に首をすり寄せてきました。フルールが甘えるときの仕草です。

「なあに? 『あなたは?』って聞いてるの?」

リリーは、にっこり笑って答えます。

「私は、どんな季節も好きよ。フルールが一緒にいてくれるもの。どんな季節もすてきな、楽しいものになるわ」

そう言うと、大切な家族の首をとんとんと叩きました。

リリーの仕事は、この村に春を呼ぶことです。彼女がフルールに乗って村中を巡ると、雪が溶け、動物たちが目覚め、春になります。

その美しく不思議な光景を、この村に住む人々は、毎年楽しみにしていました。春を呼ぶ仕事は、亡くなった母親から受け継いだものでした。母親は、リリーがベッドに入ってもなかなか眠れないときに、村に伝わる物語を聞かせてくれました。

昔々から、この村には冬の神様の力がはたらいていて、なかなか春が来なかったそうです。ある日、そんな状況を見かねた旅の魔法使いが、村に住む少女とその愛馬に、「春を呼ぶ力」を贈ったのでした。

少女は、毎年その愛馬に乗って春を呼び、人々に感謝されたとか。彼女の勇気と行動をたたえて、人々は彼女のことを「春を呼ぶ少女」と呼んだのでした。

 

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