第一部 認知症になった母の人生

第3章「病気の発見~入院=大きな転換点」のまとめ

【コラム 散歩から帰れる不思議】

■でも、現実として帰れない高齢者がいる。

▲道順障害と街並失認という症状がある。

■ここに要介護度が低いにもかかわらず、行方不明になる認知症高齢者の背景にある「道順障害」と「街並失認」。街並失認は右海馬、海馬傍回、紡錘状回、舌状回に病巣が見られる。特に海馬傍回後部が新規の街並記銘に関係していることが分かる。(海馬傍回:記憶の符号化〔覚える過程〕と記憶の探索に強い影響)1

■認知症高齢者の外出困難を「認知機能」の低下のみに帰結させない。

▲①外出困難や帰宅困難を「街並失認」や「道順障害」という医学レベルでとらえようとする。

②また、認知機能の低下というレベルでとらえてもいる。

③しかし、この研究で見えてきたことは、もちろん「医学レベル」の問題や課題が基底的にはありながらも、多様な要因が作用している可能性があることだ。

④家族の支援の力、本人の生来のパーソナリティ、本人の経験知や学校教育以外で培われた社会活動から得られた『勘』そして地域の支える力だ。

この中で大切なことは、本人が“こうしたい”、という『意欲の芽』を摘み取らず、大事に育ててゆこうとする環境と関係づくりだ。

■同居後はどうか?

▲引っ越してから、住み慣れてない地域に暮らす母は帰宅困難があったか?

確か一度だけあった。「親切な方が家まで送ってくれた」とその時はずいぶん広い範囲を散歩していた。散歩というよりフィジカルエクササイズなのだ。(母にはGPS機能付きの携帯電話をもってもらった)

■少しずつ、足の痛みも強くなり、だんだん自宅から300mの範囲を歩くことしかなくなっていた。