日本一の頂へ

彼らは、高野山大学の合気道部に所属していて、毎年この小屋に働きにくるバイトの常連らしかった。

住み込みのバイトといっても、夜は自由時間もそれなりにある。暇を持て余す私に、お坊さんの一人、賢くんが漫画をたくさん貸してくれた。『X-ファイル』という超常現象のサスペンス漫画だった。

私はそれを読んだことをすごく後悔した。ものすごく怖い内容だったからだ。

「読まなきゃ良かった」

と賢くんに言うと、賢くんは笑って面白がっていた。

小屋の中にトイレはない。外にあるのだ。夜、引き戸の向こうは本物の漆黒の闇、冷たい強風も吹き荒れる中、宇宙人が来たらどうしようと恐怖におののきながらトイレに向かった。手洗いの水も手が切れそうなほど冷たい。富士山は、暮らすには厳しいところだ。

一週間に一度、お風呂に入れた。従業員用の風呂があるのである。そんな経験も初めてだが、ここまで寒いと汗もかかないので、入らなくても全く平気だ。

働き始めてしばらくたった頃、社長が実家に電話をしなさい、と言ってきた。え、そんなことができるんだ、と思いながらも、私は電話を貸してもらった。

記念になると思って、はがきは出したものの、山に入ってからはなんの連絡もしていなかった。携帯などまだ持っていない頃である。

「里子ちゃん? ああ、ああ」

母が泣きそうな声で電話に出た。

「あんたがいなくなったような気がした」

それを聞いて、私はぐっときた。

「大丈夫、元気だよ。すごいよ。富士山は、何もかも、すごいよ」