二人の世界

「私たち、ずいぶん味わって飲むようになったわよね。メグなんて日本酒ぐいぐい飲んでたのに」

「朱美も俺に合わせているうち、だいぶ飲めるようになったよな」

「でもこのペースの方がお酒の味が分かるようになったみたい。足りない時はノンアル飲めば十分だもん」

「これ旨いな、食べたことあったっけ。何だろ。ちょっと食ってみ。おじちゃん、これなあに」

「辛子レンコンを揚げたヤツ、ほれ、休みの日は女房と一緒にアンテナショップ行くべ。そこで見つけた」

「これ定番で出しなよ」ってメグ先生。

「これもアンテナショップのなの? こっちも美味しい、ちょっと食べてみて」って、朱美さん、昆布の巻物、小皿に取り分けてる。

「たらこが巻いてある。あまじょっぱい。おせちにもいいわよ」

なんて言って、お皿で交換したり、時にはお互いの口に運んでる。それが自然で、お互いを気遣う老夫婦みたい。いけないんだけど、いつも見ちゃう。

「アンテナショップって毎週行くの?」

「いや、月一、二回。いろんな県が出してんだ。面白れぇよ。気に入ったのは通販で送ってもらってる」

「そうなの。勉強熱心だね」

「これしかできねえし、楽しみだからよ」っておじちゃん。

「俺が無理言って頼む洋食もメニューに加えればいいのに」

そう言いながら、メグ先生と朱美さん、すぐ二人の世界に入っちゃう。毎日、飽きないのかな、なんて思っちゃうけど、毎日話題が変わる。今日はガーデニングの話してる。

「お母さん好きだったポーチュラカはもうすぐ終わりね。次、どうしようか」

「紫陽花は親父が好きだったんだけど、俺はあまり好きじゃない。枯れちゃったから、他のに植え替えよう。おばあちゃんが好きだった芝桜、あれだけは上手くできないよなあ。プランターじゃ難しいって裏の農家のおじいちゃんに言われちゃった。秋冬にも咲くのって何がある?」

「とにかくカラフルなのがいいのよね、メグは。パンジーは定番ね」なんて、花の図鑑なんて広げて話してる。いつも何らかの図鑑とか雑誌を持ってきて話してる。

メグ先生はいつも酔った雰囲気はない。久松で付き合いで飲む時は、お酒も、焼酎もお店でお水を出すコップ一杯だけ。二杯目はノンアルコールにしてる。だけど楽しそうに話してる。

うちのパパなんて、いつもだらだら飲んでて、テレビ見ながらソファーで寝ちゃう。ママはいつも、「またやってる」って寝室まで連れてくのに。