第1章 バーカー仮説

3│バーカー語録( 著書『The Best Start in Life』より)

バーカーのタイトルは、やや象徴的なものですが、日本語訳はストレートに本の主題を掲げる衝撃的なタイトルです。この本の中には、多くの驚異的な事実が述べられていますが、ここに「バーカー語録」として、その一部を紹介します。

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心臓病・脳卒中・高血圧は、胎児期及び乳児期の栄養不良に、発育期の体の「可塑性」が反応したところに始まっている。これが「成人病胎児期起源説」である。

筆者コメント

可塑性とは、成長がいつも決まったコースを進むのではなく、環境の状況により、臨機応変に変わる性質をさします。同じ遺伝子型を持っていても、実際の外見や性質(表現型)は、育った環境によって異なることを示します。

例を挙げると、母体の栄養状態が良ければ、胎児はのびのびと育ち、正期産で、バランスの取れた体重3,000グラム前後で生まれます。母体の栄養状態が悪ければ成長するためのエネルギーを節約し、胎児は2,500グラム以下で、やや頭でっかちに生まれます。この時、外見だけでなく、腎臓や膵臓など内臓の成長にも変化が起こり、生活習慣病の素地を作ります。

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受精した瞬間の人間は、この先いかようにも成長する可能性がある。ここからどんな成長過程をたどり、どれくらいの大きさで誕生するか。それを決めるのは胎内の環境であり、特に大切なのは母親から送り込まれる栄養だ。

筆者コメント

バーカーは、母親の栄養状態を良くすることで、胎児の成長発達が望ましい方向に進み、健康な子が生まれると繰り返し強調しています。また、妊娠中の栄養だけでなく、妊娠前の女性の食事と栄養も、同じく重要だと繰り返し述べています。

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胎児期や乳児期に獲得した強みは、後年になって不利な状況に置かれても消えない。幸先の良いスタートは生涯持ち続けられる宝物なのである。

筆者コメント

健康な母体(適切な食生活習慣、喫煙習慣なし、薬物摂取なし)から生まれた成熟児(小さすぎず、大きすぎず)は、小児期を健康に過ごし、丈夫な肉体となり、成人期のいろいろなストレスや、環境変化にも適切に対応でき、成人病にかかりにくいと考えられます。