『無知だった領域』

そうして殆ど走って学校に行くくせに、遅刻ギリギリで教室に着く。残念なことに、最近ではこの時間帯に到着することに慣れが生じており、焦る気持ちも薄らぎ、不良路線に踏み入りつつある。

詳しくどれくらいギリギリで教室に着いているかと言うと、俺がリュックを机に置き、粗方中身を机の中にしまい込み腰を下ろす頃にチャイムが鳴るくらいだ。悪い場合では俺が教室に入る頃に朝の会が始まっている時もある。

いつもの風景だ。そうして、無事に着席が完了し、朝の会が始まる。

「なぁ、昨日何で休んでたんだ?」

「?」

朝の挨拶「おはようございます」をクラスメイト全員で言い終わった後、人一人が通れる距離を置いて隣に座る友人が身を乗り出し小声で俺に聞いてきた。

「……えっと……、サボり的な?」

いきなり「憑依生命体と闘うべく、宇宙人みたいなのに変身して姉を助けようとしたら、いつの間にか、一日気絶してた」なんて言う訳にもいかないので、俺ははぐらかすようにそう答えた。

「はー、マジかよ」

友人は「いいなー」と言った羨む表情を作り、眉を寄せて軽く俺を睨んだ。個人的にも実際に学校をボっていた訳じゃないので、自分のヘタクソな言い訳に後悔してちょっと苛立った。

そんな中でも朝の会は特に面白いアクションもないまま順々と進んでいき、生真面目に「朝の会」という面倒事を進行する司会の2名のやり取りを眺めた。

「(……というか、俺は昨日普通に仮病で休んでいた事になるのか。家に電話しても俺がいないから自然と誰も電話に出ないし……。家出る前に、留守電チェックしとけばよかったな)」

「ならば」と思い、ふと考えてみる。昨日の欠席している俺の扱いはどうなったんだ?

普段通りなら隣に座る人が朝の会の項目にある「欠席者の確認」で挙手し欠席している名前を名乗り上げるのだが、俺の隣に座る清廉潔白で無口な少女、日下部アイリはどんな顔をして俺の名前を言ったのだろう?

本音を語ればちょっと気になる所だが、そんな変態染みたことを直接本人又は知人に聞ける度胸もなく、結局あっという間に朝の会が終わる。

1時間目は国語。

毎度この授業で出される「本読み」と言う宿題は、勿論やってきていない。この授業の早々始まるのは、席の並び縦一列に本読みを課せられることだ。