第一章 ネパールの大地へ

カトマンズ道路事情

空港へ降り立った私たちを待ち受けていたのは、かわいらしいメタリックピンクの軽自動車だった。日本ではもう見ることのできないような古さ。いわゆるポンコツ車だ。座ると天井が頭にすれすれ、クッションがはみ出して垂れ下がっている。

スーツケースはトランクに一つしか入らず、残りのもう一つを後部座席の真ん中に置く。私たちはその両脇に座ることとなった。機内に続き、またしても狭い空間での移動だ。

そして、走り出すやいなや、私たちは何度も頭を天井にぶつけた。むち打ち症になりそうなほどの衝撃に身も心も痛む。見た目はアスファルトの道路だが、あちこちに大きな穴やくぼみのあるでこぼこ道だ。

二人で顔を見合わせ、「まるで、ロデオ状態!」と同じことをつぶやいた。これはひたすら口を閉じて辛抱するしかない。なぜなら、会話をすると舌を噛んでしまいそうだからだ。また、道路が狭いため、車とすれ違う度にとてもスリリング。接触するのではないかとひやひやする。

口をつぐんで周りを見ると、バスやタクシーの他にオートバイ、オート三輪、リクシャーという自転車の後ろに人力車が付いたような乗り物が、一本の道路を一緒くたに走っている。

信号はほとんどなく、クラクションの合図がすべてだ。いろんなクラクションの音が重なり合って鳴り響き、ものすごい砂煙が舞っている。坂道も結構多いため、なおさらアップダウンが激しく感じられる。

そんな中、あちこちで子どもたちが楽しそうに遊んでいる。また、果物店には、みかんやりんごが山積み。バナナは紐で縦に吊ってあり、思わずほほえんでしまう。色とりどりの果物がずらりと並んでいるのを見て、異国に来た喜びを噛みしめる。

乗り心地にすっかり慣れた頃、ふと「カトマンズで抗議行動、死者四人、負傷者一二〇人」という機内放送を思い出した。たどたどしい英語で運転手に質問すると、インドの映画俳優がネパール人は嫌いだという発言をし、それに怒った人たちが二日間にわたって暴動を起こしていたことがわかった。そして、今はもう収まっているとのこと。とりあえず、ほっと胸をなで下ろした。

それにしても、すごいところに来たものだ。ネパールの道では、自分の身は自分で守らなければならない。日本ではとても体験できない喧噪と混沌の世界。いきなりその洗礼を受けた私たち。想定を遥かに超える状況に、期待よりも不安の方が上回る。これまでの海外旅行では経験したことのない感覚だ。これから一体どんなことが待ち受けているのだろうか。

横に目をやると、大人二人を乗せて走るリクシャーの運転手が見えた。こんなでこぼこ道をよく進んでいくものだ。その並々ならぬハンドル操作のテクニックと、重いペダルを踏んで前進し続ける根性には頭が下がった。