第二章 招魂と入れ替わり

何を言い出すと思いきや、タマまで連れて行かれてたまるか。

「タマは自由人というか自由猫だから、一緒になんか行きませんよ……それにあんたのところ、お父さんは古い物に興味があるからいいとしても、お母さんが変に思うでしょ」

私はタマを連れて行こうとする致嗣を睨みながら言ってやる。

「知らなかったのか、母親は小学生の時に亡くなって今は父と二人暮らしだ。だから、蔵人が来ても気味悪がるどころか喜ぶし、困ることは何もない」

あっ、そうだった。随分前にお兄ちゃんがそんな事を言っていたな……。致嗣はまだ小さいのに可哀想だと……

「そうだな、行ってみるか」

そう言うタマの声が聞こえ、私を落ち込ませる。「タマー」と呼ぶ。残念を通り越し悔しくて。私の声は聞こえているはずなのに、無視しタマは致嗣に話し掛ける。

「それにしても、お前は洋子と違い随分と冷静だな」

「充分驚いているけど、興味の方が勝っているかな。だから早く父親に会わせたいんだ」

するとタマは、振り返り私に指示を出すのです。

「洋子、生石灰は水に濡れると発火する恐れがあるから、描いた絵図の生石灰は集めて暗所に保管しておいてくれ。じゃぁな」とタマ。

「また連絡するよ」と上機嫌の致嗣。二人はそう言い残すと、さっさと帰って行ってしまった。

ひとり残された私、さっきから聞こえていた蝉の声が、日差しを受けて纏わり付いてくる。

「何なのよー!」怒りで大声が出る。

ここずっと楽しみにしてたのに……結局、諸々の準備と後片付けだけだなんて。本当に頭にくる奴だ!

それにしても、タマの声は二人に同時に聞こえてきたみたいだった。あれは何人にも出来るのかしら? 今度聞いてみよう。

月曜日、致嗣は何事も無かったように、私の前を通り過ぎていった――

まっ、それでいいけど。部活頑張ってくださいよね。

あぁーー、早く夏休みになれー!

火曜水曜、何事も無く過ぎて行く。

なのに木曜の朝、致嗣が急に教室にやって来たのだ。そしてあろう事か私を「おい水野、ちょっと話がある」と呼びつけたのだ。