第二章 晴美と壁

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その晩、父親と兄と姉も加わって食卓を囲んだ。なぜ、すぐに晴美が帰ってきたのか、その理由を理解してくれた。父親が皆の心を代表するように言った。

「晴美、お前はいま、人生の岐路に立たされているんだよ。家族全員で応援するから、めげないで『円い町』の町民になれるように頑張りなさい」

家族みんなが一緒に息を大きく吸い込んでゆっくりと吐いていった。

「父さん、母さん、兄さん、姉さん、私は頑張るからね。渾身の力を込めて四つの条件をクリアーしてみせるわ。見ていて。何年かかってもいいそうよ。リーダーの春恵さんがそうおっしゃったわ」

「リーダーは女性なの?」

母親が訊いた。

「そうなのよ、女性なの。そんなところからも私は『円い町』を気に入ったわ」

晴美はまるで『円い町』の住民になったかのようににこやかで温和な表情になった。

「『円い町』という発想は男性の硬直した考えより、女性のしなやかな柔らかい考えから編み出されたのだろうな。有史以来続いてきた男性社会はもう限界に来ている。父さんはこれからの女性は今よりも更に活躍すると思うよ」

「そうよね。これからはますます女性の時代がやってくるわね」

母親が思慮深く言った。

自室の東向きの窓から入ってくる五月の薫風を肌に触れながら、晴美は回転椅子に座ると、足を組み、これからどのように四つの条件をクリアーしていくかを懸命に考えた。

四つの条件は一つに集約すると、とにかく人の輪の中へ入っていって身につけるしかない――。

そのために、晴美はまずは精神障がい者たちと接すること。そして、それと並行して健常者のいる所へ行くこと。この二つを辛抱強くやればいいのだ、と思った。

数日後、通院している岡坂病院のソーシャルワーカーさんに晴美は会った。二人は相談室に入って座った。

彼女は身長一四〇センチほどの小柄ではあるが、纏っているのは制服とはいえ着こなしにはセンスの良さを感じさせる。新卒間もない若い女性である。晴美は彼女に『円い町』の町民になるにはどうしたらよいかを単刀直入に相談した。

「作業所に通う手もありますが、あなたの場合、体がよく動くようになっていますので作業所より、むしろデイケアに通う方がいいのではと私は考えますね……」

作業所もデイケアもどちらも晴美には初体験である。

「デイケアって、どういう所でしょうか?」

晴美の真剣な眼差しを見て、その若いソーシャルワーカーさんはその言葉を全身に受け止めて言った。