第3章 貧困に耐えた中学時代

虫の浮いたすいとん

食事は相変わらず粗末な物でした。お米より小麦粉の方が安上がりなので、夕飯は毎日すいとんを作っていました。小麦粉は製麺所で買うと安いので、学校が休みの日に五キロずつ買いに行きます。製麺所は自宅から町の反対側にあり、遠い道を自転車の荷台に付けて運びました。

製麺所の近くに、四年生の時にトンネルの壁の窪みの話をして下さった先生の家がありました。庭に立派な植木のある大きな家が明るい日差しに包まれて見えています。

先生の家の前は、自転車に乗ったままでは登れない急な坂道でした。いつも自転車を降りて立ち止まります。じっと玄関の戸を見ていると、先生が今にも出てきそうでした。先生にお会いすれば、何か楽しい話が聞けるような気もしました。

「おお! 久しぶりだな。どうしたんだい?」と声も聞こえるようです。私は先生に会いたいと思いましたが、小麦粉を積んでいるのがとても気になって、いつも急いで立ち去りました。

五人のお腹を満たすすいとんは、毎日大きな鉄製の弦の付いた鍋にたっぷり作ります。具は父が育てた庭の葉菜も重宝しました。

ところがある日の事、神様の悪戯なのでしょうか、その葉に虫が付いていたのです。出来上がったすいとんの蓋を開けた途端、私は信じられない光景に固まってしまいました。青虫が何匹も浮いていたのです。

虫さえ無ければ、とても美味しそうで良い匂いです。そのすいとんは捨てられません。捨ててしまったら、家族全員一食抜きになってしまいます。どうしたら食べられるのか迷いました。団子だけを拾って食べるか、虫を除けるかのどちらかです。

思案の末、二センチ程の虫を全部拾って除けました。そして、その事を話せば皆が気にすると思い、何も言わず食べました。「知らぬが仏」と言いますが、知らない方が良い事だってあります。もちろん私も食べたのです。

今の私は、それと同じ物を食べられるでしょうか? とても食べられません。何故あの時は食べることが出来たのでしょう?

今考えると、「不思議な生きる力があった」としか言い様が無いのです。その時はさすがに腹痛が心配になり、朝起きた時、皆の元気な顔を見てほっとしました。