――二十一世紀、人類は、複雑で曖昧な思考を情報技術で統制しようと試みた。

ところが経済は不確実性を拡大し世界を混沌に引きずり込んでしまう。

この世界に、丽萍(リーピン)は闘いを挑む。この世界に勝者はいるのか。

第一章 再起

一人の見慣れない日本人の隣に座るようにチーママの小李(シャオリ)から促された。

中肉中背で少し浅黒い陳丽萍(チンリーピン)は、港湾広場(*)の東側にある「風倶楽部」で、一緒に並んでいる「小姐(シャオジェ)(ホステス)」の中では、逆に目立つ存在だった。

「風倶楽部」は、韓国人経営者が、朝鮮族の李姉妹に預けている、大連では老舗の日本人クラブだ。遼寧省に多いロシア系・朝鮮系中国人の真っ白な肌、長身でグラマラスな体形の中で、日本人サラリーマンは、クライアントに忖度し彼女のような目立たない小姐を指名することが多い。

《小詩(シャオシ)(詩ちゃん)、元気で過ごしていますか。いつも、あなたのことが心配で、頭から離れません。

父亲(フーチン)(お父さん)や母亲(ムーチン)(お母さん)が仕事に出かけた後、一人で小学校に行けていますか。ご飯を食べていますか。姐姐(ジィェジィェ)(お姉ちゃん)は、相変わらず、お金に苦労しながらだけど、大学へ行って勉強をしています。

今日、お店で優しそうな日本人が私を選んでくれました。今月の給料が五十元(約800円)増えます。次に来てくれたら、五十元、ボトルを入れてくれると更に百元(約1,600円)になります。きっと大丈夫です。今月は寮費が払えそうです。

彼は中国語が分からないので、最初は戸惑っていました。私も日本語ができないので、

暫く黙っていたら、英語で名前を聞かれたので、英語と筆談で話すことにしました。彼は英語もあまり得意ではないようで、それに、彼の発音が悪く聞き取りにくいのです。でも、私との会話を楽しんでくれたようで、暫くしたら大連にまた来るので、その時は、店に来ると約束してくれました。

彼に電話番号を聞かれましたが、「163(*)」のメールアドレスを教えました。毎日、店に来ているので、必要ないのにね。

しっかりと勉強して下さい。あなたが、高校生になる頃には、私のお給料でお金に苦労することなく、勉強できるようにしてあげるからね。私は、お給料の多いところへ勤める為に、外語大学を良い成績で卒業するように頑張るからね。

母亲の言うことを聞いて、しっかり食べて元気にいて下さい。》