七 ジローの死

「わかった、ジロー。わしはもう何も言うまい。思いっ切り戦うがよい。マッコウクジラの意地と誇りをあの化け物に見せてやれ」

それがジローに対する長老の精一杯の励ましの言葉だった。ジローはマッコウクジラの持つ戦闘能力の全てを出し切って戦った。

海中でのすばやい身のこなし。

超音波攻撃。

尾ビレ打ち。

噛みつき。

体当たり。

ジローも『離れマッコウ』として、七つの海を渡り泳いだ勇者だが、デビルはあまりにも大き過ぎた。善戦及ばず力尽き、遂に敗れた。デビルの太い足に巻きつかれ窒息死する寸前、ジローの瞼にコジローの姿が浮かんだ。

幻のコジローに向かってジローは叫んだ。

「息子よ、父の仇を討とうと思うな。父でさえかなわなかったデビルなのだ。仇討ちなど考えず、ハナコちゃんといっしょに遠くの海で平和に暮らせ。そして子孫を残して天寿を全うしろ。それだけが父の願いだ」

我が子の行く末を案じつつ、ジローはその生涯を閉じた。 

八 ハナコの決意と長老の特訓

ジローがデビルに敗れたという知らせは、二頭の戦いを目撃した仲間のマッコウクジラによってコジローや群れの仲間へもたらされた。ハナコと長老はコジローの元へ駆けつけた。長老はハナコとコジローに事情を話し、コジローにわびた。

「すまん、コジロー。ジローに口止めされていたのじゃ」

長老は心底すまなそうに言った。その姿はとてもつらそうだった。コジローは長老をいたわるように言った。

「いいえ、長老が悪いのではありません。お父さんは僕とハナコちゃんの身代わりとなってデビルと戦ってくれたんです。デビルと戦っても勝ち目がないことを身を以って教えてくれたんです。でも僕はお父さんを殺されて黙っているなんてできません」

ハナコも言った。

「わたしもデビルを許せない。ジローおじさんに説得されて仇討ちを諦めたけど、そのジローおじさんもミミちゃんもデビルに殺されてしまった。わたしは絶対にデビルを許せない。たとえ負けても、デビルと戦うわ」

二頭の言葉に長老はうろたえた。