人形的美少女

E子さん母子が私の塾に来た時、お母さんは二十代の未婚の女性のように若い人だった。E子ちゃんは小学二年生ということだったが、五才児位の感じがした。

パーマをかけてカールをした髪形。お人形のような服装。マニキュアまでしているし、顔も、薄く口紅なども塗ってあるのだ。「ママさんドール」という言葉があるが、まさに、母親によって人形のようにつくられているのである。

E子ちゃんそのものが、いわば器量の良い子で、可愛い服装をさせたくなるのも無理がないにしても、パーマ、マニキュア、化粧などは少し行き過ぎではないだろうかと思った。

「算数ができない」ということで、勉強をみていると、自分で問題にとりくんでゆこうとする力が弱いのである。Eさんが子供に向けるエネルギーは、主に「可愛く見せる事」に費やされているため、じっと、パーマをかけられたり、可愛い服を着せられたりで、E子ちゃんは「受け身」の時間が長かったのである。

「お母さま、この子は、海岸にでも連れて行って、一日中、砂遊びとかさせるといいです。さいわい、海が近いですから―。公園でもいいですし、野原などは、もっといいです。ともかく、走ったり、自分で遊びを見つけたりするようにしてあげると、勉強もできるようになります。二年生ですから、まだ、まだ、やれますから。四、五年生になってからだと、算数だけでなく他の教科ももっとできなくなって、他の子との間も、どうなるか……。どんどん難しくなります。ともかく、自然の中で泥まみれで遊ばせることが大切です」

と、二、 三ヵ月たってからEさんに言うと、彼女は

「周りの人も、皆、先生と同じような事を言うんです」

このように応じるのだった。

「そうでしょう。おじいちゃま、おばあちゃまもいるわけですから"何かちがう""どっかおかしい"と心配している筈です」

私は、Eさんに"あなたが、子供を人形のように飾りたてるのがおかしいんだ"とは言わなかった。しかし、彼女が私の言うことの真意が分かる人だったのは、E子ちゃんが変わっていったことで証明された。

右のようなお母さまとの会話を持ってから、E子ちゃんはだんだんと"薄汚く"なっていったのだ。要するに、子供というのは、汗で髪が額にへばりついていたり、すり傷のあとがカサブタになっていたり、靴下が汚れていたり、虫に刺された跡が残っていたりしているものなのだが、そうなっていったのだ。

服も、人形服のようなフリルで飾り立てたドレスからTシャツ系になってゆき、髪のカールはとれてストレートになり、ある日は、それがバッサリとショートヘアーになっていたのである。

要するに、Eさんは子供を"人形化"するのを止めて、普通の子供らしい生活をさせるようになったのだ。すると、E子ちゃんは算数もメキメキできるようになってゆき、気骨のある子になっていったのである。「自分核」が強まってくると、ウジウジしないで難しい問題にもとりくむし自己表現も、ものおじしないのだった。

【前回の記事を読む】学習障害児と自我脆弱児の違いを早期に見分けて対処すれば、たくさんの子が"救われる"