三章「ロマンシング・デイ」当日、彼らは帰ってくる

「いくら才能がある人でも、初めは才能を遮られる場合がたくさんある。変化を嫌う人や既に確立された構造とかにね。そんなもので才能をダメにさせないために、知識と道を提供するんだ。才能を持った人が入ろうとしている業界内に有害な人がいたら、その業界は伸びないだろ。教育全般に同じことがいえるはずだ」

トラヴィスは真剣に聞き入っている。

「数日後、サウス国で若くしてパイプオルガンを弾く才能を開花させている人に会う。その人に道を示してあげる仕事をするつもりだ。この人がどんな飛躍をするのか見ておいてくれ、それで俺のいっていることが正しいと証明してやる」

「やはり成功者がいう言葉の重みは違うな……。そうだっ」

トラヴィスは何かひらめいたようだ。

「俺はとても素人には解決できそうもない悩み事を抱えている。ドラン、相談にのってくれないか」

トラヴィスの発言であることに気づいた。

「俺だって一班に所属していた成功者じゃないか。ついさっき、俺のアドバイスはいらないっていってなかったか」

「いったさ。センター国の兵士がどんなに活躍しても、国外からは危険人物・悪人としか見られない。ギルバートの偉大さは国外には認められない」

ドランの方が偉大なのは間違いないが、トラヴィスにいわれると腹立つ。

俺は「皆はトラヴィスの悩みごとなんかよりも、ドランの仕事について興味があるはずだ」とドランに有名人にしか体験できない話をしてもらうように促す。

「私も聞いてみたいかも」

ステファニーは賛同した。

「実は私もじっくりとドランの話を聞いていないの」

ヘラまで賛同してくれた。

「俺とステフィーとヘラがドランの話を聞きたがっているぞ。多数決で決まりだな」

トラヴィスは悔しいそぶりをみせたあとに「あとで相談に必ずのってもらうからな」と空気を読む珍しい行動を取る。

「皆が思っているほど自慢出来ることはないよ……。あのツアーは大失敗だった」

センター国で最大規模のフィルハーモニー交響楽団は、ドランが入団してからわずか数年で全世界に認められるようになる。そのあとも快進撃は衰えることはなく、世界規模のコンサートが開かれることになった。

その影響でドランだけは、同時期に兵士になることはできなかった。それでも関係が悪化しなかったのは、皆がドランの成功を自分のことのように心から喜び、祝福をしたからだ。

世界初の功績を残したドランを超えられる指揮者などいないと思っていた。そんな俺たちの誇りであるドランから聞けたのは世界の厳しさだけだったのだ。