第三のオンナ、

まゆ実

翌日のテニスサークル。わたしは、千春に会っても話しかけることができなかった。

ガーデンプレイスで隣りにいた男性は誰? それだけなのに。

仮に貴輝だったとしたら当然、どうして千春と一緒にいたのか追及することになる。千春の動機はともかく貴輝の気持ちを確かめなくてはならない。

その一方、女性と二人きりで会っていたということだけで、逐一、恋人に確認する行為は器の小さい人間のような気がする。

貴輝は運命の人じゃなかったの?

運命の人を信じなくてどうするの?

自分にそう言い聞かせると、ガーデンプレイスの件はスルーすることに決めた。

「先輩、次の日曜、空いてます?」

ベンチに座って水分補給をしていると、背後から千春が耳元でささやいてきた。新たなそっくりさんに会うことはサークル仲間――特にイガラシ君には内緒ということになっている。知られたら冷やかされるに決まっている。

「ちょっと待って」

スポーツ用に使用している小物入れからスマホを取り出し、スケジュールを確認する。

「夕方までならいいけど」

その日の夜は、貴輝が福岡から戻る予定なのだ。

「よかったー。じゃあ時間が決まったら改めて連絡しますね」

千春が小走りでイガラシ君のところにいそいそと向かう。

幹事のイガラシ君は新入部員の教育係も兼ねていて、基本練習の指導で忙しく動き回っていた。「猫の手も借りてー」と不満を言いつつも、鼻の下が伸びている。

「ただいま戻りました」

千春が言い終わらないうちにイガラシ君が「双子のお姉ちゃんと何を話してたの?」と茶化す。イガラシ君は声が大きく、離れたところでもよく聞こえる。

「別にいいじゃない。何を話してたのか教えてよ~」

と人差し指を千春の二の腕に押し当て、くすぐるように回している。ほかの新入りの女性と明らかに接し方が違う。よほど千春がお気に入りらしい。

「さてと」

わたしはペットボトルの蓋を締め、練習に戻る。

柔らかな午後の陽が、テニスコートの表面を茜色に染め始めていた。