第二章「天の神様と土の神様」  ゆう

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雨が降ると、母は、決まって熱唱するアイドルの歌がある。しかも、毎回フルコーラスで。

実は、あれからシトラスの香りの彼と会えていない。原因は、雨だ。

雨が降ると、白杖を持って外に出るのは危険なのだ。なぜなら、みんな傘を差していて、下ばかり見ているから、私に気づくのが遅れ、ぶつかってしまう。だから、雨の日や梅雨の時期には、両親が私を学校まで送ってくれる。今日も例によって、雨だった。

彼の名前ぐらい、聞いておけばよかったな──。車の中、我が家のアイドルが熱唱する。

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激しく鳴いているクマゼミの声が風に乗って夏の暑さを運んでくる、六月下旬。

私は、久しぶりにバスで通学した。彼とほんの少しだけ話した日から、一か月ほど経っていた。さすがに、私のことなんて、もう忘れているだろうと思った。けれど、「ここの席、空いているよ」と彼の声が聞こえたときは、胸のドキドキが止まらなかった。

バスの中、二人掛けのシート。彼が私の隣に座る。シトラスの香りと伊集の香りがほんの少し触れ合う距離。──何だか気まずい。けど、この機会を逃したくはない。私は意を決して話しかけた。

「あのっ!」

二人同時だった。私は、彼に先を譲った。でも、彼は私に先を譲ろうとする。私は、一か月も離れていた分、もっと彼と話したいと思った。だから、私から話すことにした。

「名前、訊いてもいいですか?」

「あ、そうか。お互いに名前知らなかったね。俺は、(ほまれ)春野(はるの)誉です。君は?」

「私は、由紀。花城(はなしろ)由紀です。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします。由紀さん」

「由紀さん」と先生以外に呼ばれたことのない私は、とてもこそばゆい感じがした。話を変えなければと思い、「誉さんは、さっき、何を話そうとしたのですか?」と訊いた。